空想お散歩紀行 合体する神
人は常に知らないもの、分からないものに対する恐怖を抱えてきた。それらに怯え、逃げることで生き延びることができたとも言える。
しかし、中には未知なるものに立ち向かい、その正体を暴くことを使命とする者たちもいた。
未知なるものに対する畏怖と探究。この二つはどんな時代だろうと変わることはない。
そしてここにも立ち向かう一人の男がいた。
崩れかけている瓦礫の中を慎重に進み、男はとある場所へと辿り着いた。
そこは瓦礫の隙間から、微かに外の光が入ってくる程度で、普通だったら見つかるような場所ではない。危険を承知の上で進んだからこそ見つけることができたのだ。
そこには明らかに自然の物とは違う異物が大量に置かれていた。
おそらくずっと昔に滅んだ文明に関するものだろうと男は確信を持っていた。
火の入ったランタンを手に持ち、男はその部屋の中にある物体に慎重に近づく。触れると壊れてしまうかもしれない。過去の文明に関する物は、歴史を紐解く上で貴重な情報だ。
男は息をすることさえも抑えながら、しかしその目はささいなことも見逃すまいと大きく見開かれている。
彼が発見したこの部屋に置かれている物は実にいくつもの種類があるが、それらには共通点があった。
どれも人の形を象った物らしいということだ。
らしいと言うのは、人の形をしているが、明らかに人ではないからだ。
頭部や胴体、腕や足まで角ばった部品で構成されており、場所によって色も様々だ。中には体からトゲのような物が出ている品もある。
そして部屋の壁には一つの文字。
『プラモデル』
男はその文字を読むことはできたが、意味は分からなかった。
おそらく、ここにある人の形をした品々は『プラモデル』と呼ばれる物なのだろう。
そして前時代の文明ではこれらは役割を持っていた。しかし、滅びた後は無用になってしまった。だから今の時代に言葉の意味が伝わっていないのだ。
男は失われてしまった意味について嘆くことはしなかった。そんなことに価値が無いことは重々理解していた。
だから彼は考える。これは何なのかと。考察こそ歴史の解明する重要な行動だ。
おそらく『プラモデル』とは宗教的な意味を持つ像なのだろう。
人の形をしていながら人間とは異なるのは、それが神を表現しているからだ。
世界には一つの神を信奉する土地もあれば、多神教の土地もある。
ここはかつて後者の土地だったのだろう。
何種類もの神の像があるのはそのためだ。
彼は仮説を立てて、考察を進めていく。そう考えるとこの土地に住んでいた人々は実にユニークであると思えてきた。
何しろこの神様の像の中には変形するものもあるからだ。
神が動物などの変身して地上に降りてくる話はよくあるが、それを表現しているとすればなかなかに宗教に熱心な人々だったのだろう。
さらに調査を進めていくと、この変形する像を組み合わせて一つの大きな像になる物があることも分かった。
神が合体して、新たな神になるとは、彼は今まで聞いたことが無い。
実に興味深い。彼はいつしか時間も忘れてこの部屋にある過去の遺産に夢中になっていた。
その気持ちは、神様に対する畏敬の念もさることながら、どこか少年時代に感じた純粋な、強いものに対するワクワク感のようなそれに近かった。
そして彼は思った。これほどまでに熱心な宗教信仰があったのならば、なぜ文明が滅んだと同時に廃れてしまったのか。全てが滅んだ後だからこそ、神に頼る必要があったのではないか。
『プラモデル』という不思議な信仰。その謎を解き明かす日はまだまだ遠い場所にありそうだと、彼は思った。しかし同時に謎に挑める喜びも湧いてくるのであった。
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