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空想お散歩紀行 呪いの脚本と女優

それは最初は、ほんの小さな想いだったのかもしれない。
とある所に一つの脚本があった。
それが作られたのは江戸時代初期との話らしい。内容はどこにでもあるような男と女の間に浮かぶ恋愛話なのだが、時代によって幾たびもの改変がなされ、今も残っている。
その話には伝説、いや呪いがあると言われている。
それは、その話の主役である女を演じた者は近いうちに死ぬということだ。
死因は様々、階段から落ちたとか、車に轢かれたとか、突如病気になったとか、何の前触れも無く自殺したとか。
しかし、真の呪いはこれだけ実例が出ているのにもかかわらず、定期的にこの話が上演されることだ。この呪いの役を演じたがる人間がどういうわけか出てくる。
噂では、事の発端は最初、江戸時代に初めて演じた女がその役に成りきることができず、それを苦に自ら命を絶った。それ以降、この役を演じる女の魂を食らって自らの理想に近づく怨念と化したとのことだ。
そして今年、30年ぶりにその脚本を元にした映画が公開された。
今まで多くの人間の命を奪ってきた呪いの話という情報もあって、公開前からネットを中心に話題は盛り上がっていた。映画側も特に宣伝を打たなくてもいいほどであった。
特に、問題となる主演女優に関しては公開日まで誰が演じるのかついに情報が明かされなかったことも、熱の温度を爆発的に高めていた。
そして、この映画が公開されて数ヵ月経ったが、死者が出ることはなかった。
今回の映画の主演女優は、CGとAIによるバーチャル女優だったからだ。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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