空想お散歩紀行 浮島カフェ
「ふう、やっと晴れたか」
一人の中年男性が、ドアから出ると空を見上げた。
昨日まで激しい雨と風を生んでいた黒い雲が嘘のように白い雲に変わり、透き通るような青空の背景の前で輝いている。
そして足元の土や草も雨水の雫をまだ残し、太陽の光を反射していた。
風に揺れる草木。だが、揺れているのは風だけのせいではない。地面そのものが微かに揺れているからだ。
ここは小さな小さな浮島。男はその島に建つ一軒だけの建物でカフェを営んでいた。
浮島は潮の流れに身を任せ海を行く。
時には大陸の港町付近に、時には島国の浜辺に一時的に身を寄せ、そしてまた別れる。
この浮島カフェが訪れると、人々はまたこの時期が来たのかと季節を感じる。そして季節ごとのコーヒーやケーキを楽しむために、浮島へと乗り込むのだ。
季節限定メニューならぬ、季節限定カフェ。
あとひと月もすると、浮島はとある国へと最接近する。
その時その国は夏真っ盛り。大きな海水浴場の近くへと辿り着くので、水着の客で店は大繁盛。店自慢のアイスコーヒーと特性かき氷が一番の人気メニューとなる。
そろそろ夏の準備をしないとなと男は思いながらも、まずは溜まった洗濯物を干そうと再び店内へと戻っていった。
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