空想お散歩紀行 音楽列車
魔法が世の中を便利にしている。それは事実だ。
しかし、人がスコップで地面に穴を掘ることが、体力を使った人力であるのに対し、魔法で地面に穴を掘ることも魔力を使った人力であることに変わりはない。
だから、人は自分の力を使わなくて済む機械にも頼る。
だが、あえて人力で機械を動かす試みがこの度行われることとなった。
現在、大陸を網の目のように走っている鉄道路線。毎日多くの人を運んでいる列車たち。
そのレールの中に一本、特殊な道があった。
大陸の東端と西端を繫ぐ、大陸横断路線。
普段はその路線から無数に枝分かれした別のレールに列車たちは入り、それぞれの目的地に向かうが、そんな分かれ道には目もくれず、東端の始点から西端の終点まで走り抜ける列車は年に1、2本あるかないかだ。
およそ2週間を掛けてそのルートを今回走破する予定なのは、音楽列車と呼ばれるものだ。
音を魔法で動力へと変換し、列車を走らせる。その他の燃料は一切使わず、人の奏でる音楽だけが頼りだ。
だからこの企画をした会社は、様々な音楽に携わる者たちを募集した。
個人だろうが、集団だろうが、クラシックだろうがロックだろうが、民族音楽だろうが、演奏ができる者ならば誰でも。
この列車で旅をしたい乗客たちの中でも、もし楽器を持ち込んで演奏してくれるのならば、料金を割引にするというプランも打ち出した。
そして今日、多種多様な楽器を乗せ、色とりどりの音楽を鳴り響かせながら大陸横断音楽列車は出発した。
それは列車と言うよりも、移動するコンサートホールの方が的確な表現かもしれない。
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