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空想お散歩紀行 静寂はどこに

静かな所へ行きたかった。
そうすれば、この心の不安が消えると彼女は思っていた。
雑音、騒音それらが自分の心の静けさの邪魔をする。
全部消えれば、残った無音が自分を満たしてくれると。
しかし、そうはならなかった。
どこに行っても、彼女に静寂は訪れなかった。むしろ静かになればなるほど、音が際立っていった。
海の波の音。風で木や草が揺れる音。何なら空気が少し動くだけで音はするし、太陽が地面を照らす音さえも聞こえてきた。
せっかく静けさを手に入れるために、これまで行動してきたのに。むしろそれは、決して音からは逃げられないことを彼女に教えた。
それでもまだどこかに、求めるものがあるはずだと彼女は無理やり信じて歩き出した。
自分が破壊した街、人間の営みの瓦礫を踏みしめながら。

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