空想お散歩紀行 血・祭り
宇宙には様々な星がある。
文明レベルが高い星、低い星。
既に数百の他星と交流を結んでいる星もあれば、自星の中の人間同士のコミュニケーションもまだ満足に行えていない星もある。
しかし、文明のレベルに差があれど、どの星にも共通していることがある。
それは宗教的な意味合いを持った儀式を長くやり続けていることだ。別の言い方をすれば祭りをしているということだ。
一つ、既に滅んでしまった星がある。
その星には特殊な祭りがあった。
それは地球時間換算で4年に一度行われていた。
祭りの内容は、その日一日だけ殺人が許されるというものだった。
祭りとは、普段ならできないこと、やってはいけないようなことを、限定的に許可することで盛り上がるという一面がある。
普段ならしない服装、普段なら食べたり飲んだりしない物、その時だけ許される快楽。
そして快楽というのは、どこか破壊的だったり、残酷性を帯びていることもよくある。
その星ではそれがあまりにも極端だった。
その星の人々は、人を殺しても許されるその祭りの日を実に楽しみにしていた。
殺しても、殺されても、祭りの中で起こったこととして恨みを募らせることもない。誰もが殺すために体を鍛え、知恵を働かせるのと同様に、殺されないために同じように体を鍛え、知恵を働かせた。
しかし、その星は現在ほぼ滅んだと言ってもいい状態にあった。
殺すことを肯定する祭りがあるような野蛮な星だからだと、誰もが最初は思うだろう。
だが実際は違った。その星が他星との交流を始めてから長い年月が経ち、その祭りのことが宇宙に広く知られるようになると、他星からクレームが相次いだ。人権だとか、命の尊さとかを理由に。
他星との交流もあるので、その星は祭りの形態を変えざるを得なかった。祭りそのものは継続する形になったが、殺人に対しては禁止とし、スポーツのような競技を行うことでその代わりとした。
周辺の宇宙の星々は納得したが、ではその祭りがどうなったかと言うと、何とそれから驚くほど僅かな間で廃れてしまったのである。
もはやその祭りには何の刺激もなく、人々はやる気を起こすことができなくなっていた。
そしてそれは日常にも波及し、無気力となった人々で埋め尽くされた星は、次第に滅びへと進んで行ったのだった。
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