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空想お散歩紀行 見えない下に見えるもの、見える下に見えないもの

夢にまで見た都会に出てきたはいいけれど、思った以上に早く挫折しそうだ。
陰気な生まれ故郷を飛び出して、初めてこの星に降り立った時は興奮以外の感情は無かった。
実際、最初は何もかもが刺激的で、宇宙中から人が集まる理由がよく分かった。
ここでだったら退屈することなく、自分の理想の人生が作っていけると思っていた。
だが、僕にとってこの星は刺激が強すぎることに気付くのにそう時間は掛からなかった。
最初は理由は分からなかったけど、とにかく疲れた。特に人付き合いがだ。
元々人と話すことは苦痛ではなかったが、ここでは人と話すと大きな違和感を感じたのだ。
原因は今では分かる。僕の生まれた星は砂と有毒な大気に覆われた場所だった。
だからそこに暮らす人々は常にマスクを外すことはできなかった。
顔で見えるのは特殊ガラスのゴーグル部分である目元だけで鼻や口は当然見えない。
そんな日常を当然として暮らしていたものだから、僕の星の人たちは他人と話すとき、その声の調子と目元の僅かな動きだけで相手の気持ちを読み取ることが自然とできるようになっている。
だけどここは違う。マスクなんてファッション以外ではしている人なんてまずいない。
目も、口も、頬の筋肉の動きも全て見える。
だから不自然なのだ。例えば、言葉遣いは丁寧、表情も笑っているが、声の調子の奥には怒りがこもっていることが僕には分かる。
こんな風に、僕の目で見えることと、耳が捉えることがあまりにもちぐはぐで、それに疲れてしまうのだ。
たぶん僕の故郷で生まれた人たち以外は、そんな違いなど気付きもしないだろう。
何もかも開放的なはずのこの星で、僕は常に何かを閉ざしている人々を見続けることに疲れていた。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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