空想お散歩紀行 修行の果てに
一人の男がいた。
彼は高名な魔術師の元に赴き、弟子となって修行を始めた。
全ては魔術の力を身につけ、それを世のため人のために役立てるためだ。
修行は過酷を極めた。深い山奥、人の世とは隔絶された地での鍛錬が朝から晩まで続いた。
師と弟子の二人しかいないと傍からは見えるだろうが、そうではない。
様々な精霊たち、火や水を司る者たちとも共に彼は修行に明け暮れた。自然そのものが師でもあった。
数年の月日が経ったある日、師匠がこの世を去った。元々高齢であったため不思議ではないが、男は深く悲しんだ。しかし、いつまでも涙を流すわけにはいかない。元々の自分の想いと、師から受け取った遺志を背負い、さらに過酷な修行へと身を投じた。
さらに数年後異変が起きた。
それまで自分の身近にいた精霊たちが突如としていなくなったのだ。
これは何か良からぬことが起こっているに違いない。一刻も早く魔法の力を身につけ、使命を果たさなければと、男は焦る気持ちを何とか抑え、自らの力と心を磨き続けた。
それからさらに年月が過ぎていった。一体いくつの季節が巡ったであろうか。男は遂に修行を終えた。
身につけた魔法の力を携え、男は再び人の世へと帰ってきた。迷い悲しむ全ての人々を救うために。
しかし、男は現在の世界を見て愕然とする。
何と、誰もが魔法を何と言うことも無く、当たり前のように使っていたからだ。
男は知る由も無かった。数年前から精霊たちが方針を転換し、月々定額の利用料を払えば誰でも使用が可能なサブスク魔法を人間たちに与えていたことに。
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