空想お散歩紀行 自分を引き継いでいく
今日は20年に一度の特別な日だ。
目の前のベッドに横たわるその体を私は見つめている。
その体は、私と同じ姿をしていた。
髪や肌の色、身長から体重、目元のほくろまで全て。違いがあるとすれば、顔に少し皺の線があることくらいか。
最初はただの知識欲だった。もっと知りたい、世界のことを、宇宙の成り立ちを、人の心というものを。
ただ全てを知るには人間という種に与えられた時間は短すぎた。
だから私は永遠に生きることを選んだ。
と言っても一つの体では永遠には耐えられない。どんな物質も時が来れば朽ちていく。
だから私は私の代替品を作った。
私のクローンを作り、得た知識を引き継いでいく手法を取ったのだ。
20歳の私の体をスタートとして、そこから20年間活動する。と言うのも私のクローン体は20年を越えた辺りから急激に劣化が始まるからだ。
今日はその引継ぎの日。20年に一度だけ、私が「二人」存在する特別な日。
「どう?全部問題無く移行できた?」
ベッドの上の私が問いかけてくる。
問題無い、全て受け取った。私は前の私にそう返事をする。
ここで失敗することはありえない。もう40人以上の私たちがこれを繰り返してきたのだから。
「良かった。じゃあ、後のことはよろしく。あなたはさらに先に進んで」
前の私は安心したかのように目をつぶった。
当然だ。それが私の目的なのだから。
私はそう伝える。このセリフもずっと受け継がれてきたものだ。私が引き継いだ記憶の一番奥底にそれはあった。
前の私はもう動かなくなっていた。自分の死を看取ったというのに特に思うことはない。
当然だ、これを繰り返してきた記憶が最初から私の中にあるのだから。
そして、今日から私の20年間が始まる。いや、始まるのではない、続くのだ。
次の私に引き継ぐために。
しかし同時に考える。もし、私の代で全てを知るという目的を達成したら、その時はどうするのか。
これも引き継いだ記憶の中の思考として存在していたが、その答えとなるものはどこにもなかった。
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