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seiji_arita
2025年2月15日 17:22
「青い森」僕と君はふたりきりで限定された場所に居るといっても僕等は全くのふたりきりでは無いふたりの間には もうひとつの別の世界の存在がありそれは暗闇の中にじっと身を屈め潜んでいるその場所では ゆっくりと美しさが損なわれていくそんな世界である事を僕等は知っていた人混みの中で ふたりは名前すら持たない唯一 限定された場所でしか僕と君は細やかな解放感
2025年2月6日 21:21
「草の葉」僕の手に思考の電撃が走るそれは恋の始まりの様なものだった君は途方に暮れ 向かうべき道を示す常夜灯を探し彷徨っていた それは想像もつかない程の暴力を秘めた夜に似ている巨大にして偉大な静けさをもたらす夜に人々は優しい夢を見るというのに僕は路上で風に吹かれ散っていくラブレターを追いかけている彼女の意識の中にあるうちなる両手が僕を包み込んで離
2025年1月29日 14:35
「ドストエフスキーを読みながら」貴方が居なければ 僕の人生と作品はもっと薄っぺらいものになっていただろうその部屋には陽光がたっぷりと差し込み風に揺られる樹々の影がちらついていた馴れ親しんで来た十字架の横に深層意識への入り口を並べる死と同じくらい逆行不可能な幾つかの悲しみについて 僕は考えている意図的に排除されたひとつの事実を貴方と囁き合う神のこだま
2025年1月26日 17:00
「蝶とリヴォルヴァー」一途に恋焦がれた理想郷互いの瞳の瞬きと甘美なせせらぎ三十八口径のリヴォルヴァー弾丸を弾倉から抜き出すまだ終わりを迎える訳にはいかない彼女の暗い涙のあとが残る頬に口づけをした日僕等は未知数をXと置き 其れを解き明かす為の何らかの公式を探していたそう 素敵な公式を何ひとつとして傷つけられず損なわれる事もなく辛い思いも残らない卑怯だ
2024年12月29日 20:26
「いにしえの花」其処に住む様になって間もない朝僕は階下のバスルームで髭を剃っていた ねぇ こっちに来てキスしてよ 君の声が聞こえる僕は君の頬に軽く触れる程度のキスをした君はいつだって現実よりもファンタジーに引き寄せられる僕は君を軽く腕に抱き正確な輪を描く様に踊り続けている心地良さの感じられる沈黙と安らぎの温度が其処には満ちている黄昏の風と傾きかけた
2024年12月26日 15:37
「三文文士」演壇に立つ雄弁家の姿過ぎ去りつつある時間が誰かが捨てたキャンディの包み紙と共に風に吹かれて空っぽの街を流れて行く我々の価値は其の神話性の中にあるのだ 演壇から熱弁を繰り返す男写真家達が何度もしつこくカメラの焦点を合わせるぎこちない微笑み 自信に満ち溢れてはいるが其の眼差しには親切心の欠片も見えない可哀想などうしようも無い奴 僕は誰
2024年12月5日 21:08
「夜の中に」夜の中にキスを投げるまでネックレスについた黒い星僕は夏の火花の片鱗を見ていた星は光を瞬かせ海のまわりには灯火が煌めく水面を渡る静かな風が旋律を奏でるある種の陶酔を僕の中に誘発する一対の黒い瞳 其れはただ得もいわれず美しかった深い夏の情熱に満ちたプラチナ色のさざ波恋に落ちた男の気配を君は感じ取っているはず彼女の微笑みは口づけへの誘いの様
2024年12月3日 19:43
「最後の紅葉」ナイフで切れそうな程たちこめた煙不確かな船出の時君の唇に其の言葉が浮かんでいる彼女は僕の人としての弱い部分を本能的に見抜いている其れを非難する事よりも 受け入れてくれようと寄り添ってくれていた僕の人生からこぼれ落ちて消えて行った人の数をかぞえた心の痛む想い出の一部を譲り渡したまま最後に残された紅葉が揺れている人生の舵取り能力の弱さが致命傷
2024年11月21日 22:19
「太陽が捕らえた街」笑顔の固定された少女の人形が床に転がる淡いブルーの夏用のワンピースに赤い靴其の靴の赤だけが 些か不似合いで際立って見えた昼下がりでも薄暗い部屋の中で生温いビールを飲んでいる足元には妙な匂いのする犬が眠っている彼女と暮らし始めて三か月が経っていた陽当たりの悪い古い平家の一軒家だ近くに多摩川が流れている 理想的な環境とは言い難いが
2024年11月4日 22:53
「奇形児」僕等は震える手で銃を握りしめている不思議な戸惑い あるいは違和感 位相のずれの様なものが僕の中に残っている氾濫した情報は朝から晩まで垂れ流し続けられていた真実はいったい何なんだ とても単純な疑問だ目に見える余計な装飾品を全て取り去ってしまえばあるいはそれほど不思議では無いのかもしれない正義と悪だとか 正気と狂気だとか健常と障害だとか
2024年10月21日 15:37
「幻想既興曲」目が覚めると雨が降っていた遠くに見える背後の風景不条理な現実と不確実な未来を映し出す取り残された傷つきやすい自我が行き場を失いうずくまる僕等は森の中の小さな国境を越えられずにいる末端的で無意味な情報の垂れ流しに怯えていた僕等の姿は影となる僕等と世界の間には ある種の乖離がありある種の歩み寄りもある全てのものを無差別に飲み込み咀嚼し排
2024年10月7日 23:33
「第三次世界大戦」「Keep calm and carry on」- 平静を保ち 普段の生活を続けよう -パニックの発生を防ぐ為のポスターの文句を至る所で目にするもともとは第二次世界大戦が始まろうとする頃に英国の情報省が作ったポスターの様だネット上の誹謗中傷を細かく検証し事実との裏付けを取り乖離箇所を明確に記録し解析するそして構築したデータを元
2024年9月18日 22:35
「モンブラン」ひとつの生き方を提示する様に月の周りに虹の様な輪が見えた何年も前からの夏の幻影を見ている様だった無価値で道徳心の欠片も無い侮蔑された夜に月暈とは…今夜は幸運が降り注いで来る予感がした僕等は車のトランクにバールとハンマーを入れて目的の場所に向かっているヒールのかかとが取れかかっていた新しいヒールが欲しいと言っていた彼女は 靴屋に行って
2024年9月16日 19:24
「STAY GOLD」僕等は夢の中で生きているいつも どんな時でも一緒だった本当に不器用だよな お前は わかってるよ機械的に暗記された即効性と功利性志向に塗り固められた壁が押し寄せて来る其処には数値化された結果重視の硬直性が澱み無く立ち塞がる熟成した社会における例外は致命的な悲劇であるかの様に評価され其の人間固有の抱える構造的な欠陥であり社会構造内に