マガジンのカバー画像

散文詩

285
運営しているクリエイター

#僕等

青い森 《詩》

青い森 《詩》

「青い森」

僕と君はふたりきりで
限定された場所に居る

といっても僕等は全くの
ふたりきりでは無い

ふたりの間には 

もうひとつの別の世界の存在があり

それは暗闇の中にじっと
身を屈め潜んでいる

その場所では 

ゆっくりと美しさが損なわれていく

そんな世界である事を
僕等は知っていた

人混みの中で 
ふたりは名前すら持たない

唯一 限定された場所でしか

僕と君は細やかな解放感

もっとみる
草の葉 《詩》

草の葉 《詩》

「草の葉」

僕の手に思考の電撃が走る

それは恋の始まりの様なものだった

君は途方に暮れ 

向かうべき道を示す
常夜灯を探し彷徨っていた 

それは想像もつかない程の
暴力を秘めた夜に似ている

巨大にして偉大な静けさを
もたらす夜に

人々は優しい夢を見るというのに

僕は路上で風に吹かれ

散っていくラブレターを
追いかけている

彼女の意識の中にある

うちなる両手が
僕を包み込んで離

もっとみる
ドストエフスキーを読みながら 《詩》

ドストエフスキーを読みながら 《詩》

「ドストエフスキーを読みながら」

貴方が居なければ 

僕の人生と作品は

もっと薄っぺらいものに
なっていただろう

その部屋には陽光が
たっぷりと差し込み

風に揺られる
樹々の影がちらついていた

馴れ親しんで来た十字架の横に
深層意識への入り口を並べる

死と同じくらい逆行不可能な
幾つかの悲しみについて 
僕は考えている

意図的に排除されたひとつの事実を
貴方と囁き合う

神のこだま

もっとみる
蝶とリヴォルヴァー 《詩》

蝶とリヴォルヴァー 《詩》

「蝶とリヴォルヴァー」

一途に恋焦がれた理想郷

互いの瞳の瞬きと甘美なせせらぎ

三十八口径のリヴォルヴァー
弾丸を弾倉から抜き出す

まだ終わりを迎える訳にはいかない

彼女の暗い涙のあとが残る頬に
口づけをした日

僕等は未知数をXと置き 

其れを解き明かす為の
何らかの公式を探していた

そう 素敵な公式を

何ひとつとして傷つけられず
損なわれる事もなく
辛い思いも残らない

卑怯だ

もっとみる
いにしえの花 《詩》

いにしえの花 《詩》

「いにしえの花」

其処に住む様になって間もない朝

僕は階下のバスルームで
髭を剃っていた 

ねぇ こっちに来てキスしてよ   
君の声が聞こえる

僕は君の頬に
軽く触れる程度のキスをした

君はいつだって現実よりも
ファンタジーに引き寄せられる

僕は君を軽く腕に抱き

正確な輪を描く様に踊り続けている

心地良さの感じられる沈黙と
安らぎの温度が其処には満ちている

黄昏の風と傾きかけた

もっとみる
三文文士 《詩》

三文文士 《詩》

「三文文士」

演壇に立つ雄弁家の姿

過ぎ去りつつある時間が

誰かが捨てたキャンディの包み紙と
共に風に吹かれて

空っぽの街を流れて行く

我々の価値は
其の神話性の中にあるのだ 

演壇から熱弁を繰り返す男

写真家達が何度もしつこく
カメラの焦点を合わせる

ぎこちない微笑み 

自信に満ち溢れてはいるが

其の眼差しには
親切心の欠片も見えない

可哀想などうしようも無い奴 

僕は誰

もっとみる
夜の中に 《詩》

夜の中に 《詩》

「夜の中に」

夜の中にキスを投げるまで

ネックレスについた黒い星

僕は夏の火花の片鱗を見ていた

星は光を瞬かせ
海のまわりには灯火が煌めく

水面を渡る静かな風が旋律を奏でる

ある種の陶酔を僕の中に誘発する
一対の黒い瞳 

其れはただ得もいわれず美しかった

深い夏の情熱に満ちた
プラチナ色のさざ波

恋に落ちた男の気配を

君は感じ取っているはず

彼女の微笑みは
口づけへの誘いの様

もっとみる
最後の紅葉 《詩》

最後の紅葉 《詩》

「最後の紅葉」

ナイフで切れそうな程たちこめた煙

不確かな船出の時

君の唇に其の言葉が浮かんでいる

彼女は僕の人としての弱い部分を
本能的に見抜いている

其れを非難する事よりも 

受け入れてくれようと
寄り添ってくれていた

僕の人生からこぼれ落ちて
消えて行った人の数をかぞえた

心の痛む想い出の一部を譲り渡したまま

最後に残された紅葉が揺れている

人生の舵取り能力の弱さが致命傷

もっとみる
太陽が捕らえた街 《詩》

太陽が捕らえた街 《詩》

「太陽が捕らえた街」

笑顔の固定された少女の人形が
床に転がる

淡いブルーの夏用のワンピースに
赤い靴

其の靴の赤だけが 

些か不似合いで際立って見えた

昼下がりでも薄暗い部屋の中で

生温いビールを飲んでいる

足元には
妙な匂いのする犬が眠っている

彼女と暮らし始めて三か月が経っていた

陽当たりの悪い古い平家の一軒家だ

近くに多摩川が流れている 

理想的な環境とは言い難いが 

もっとみる
奇形児 《詩》

奇形児 《詩》

「奇形児」

僕等は震える手で
銃を握りしめている

不思議な戸惑い あるいは違和感 

位相のずれの様なものが

僕の中に残っている

氾濫した情報は朝から晩まで
垂れ流し続けられていた

真実はいったい何なんだ 

とても単純な疑問だ

目に見える余計な装飾品を
全て取り去ってしまえば

あるいはそれほど

不思議では無いのかもしれない

正義と悪だとか 
正気と狂気だとか
健常と障害だとか 

もっとみる
幻想既興曲 《詩》

幻想既興曲 《詩》

「幻想既興曲」

目が覚めると雨が降っていた

遠くに見える背後の風景

不条理な現実と
不確実な未来を映し出す

取り残された傷つきやすい自我が

行き場を失いうずくまる

僕等は森の中の
小さな国境を越えられずにいる

末端的で無意味な情報の垂れ流しに
怯えていた僕等の姿は影となる

僕等と世界の間には 

ある種の乖離があり

ある種の歩み寄りもある

全てのものを無差別に
飲み込み咀嚼し排

もっとみる
第三次世界大戦 《詩》

第三次世界大戦 《詩》

「第三次世界大戦」

「Keep calm and carry on」

- 平静を保ち 
     普段の生活を続けよう -

パニックの発生を防ぐ為の
ポスターの文句を至る所で目にする

もともとは第二次世界大戦が

始まろうとする頃に

英国の情報省が作った
ポスターの様だ

ネット上の誹謗中傷を細かく検証し
事実との裏付けを取り

乖離箇所を明確に記録し解析する

そして構築したデータを元

もっとみる
モンブラン 《詩》

モンブラン 《詩》

「モンブラン」

ひとつの生き方を提示する様に

月の周りに虹の様な輪が見えた

何年も前からの
夏の幻影を見ている様だった

無価値で道徳心の欠片も無い

侮蔑された夜に月暈とは…

今夜は幸運が降り注いで来る予感がした

僕等は車のトランクに
バールとハンマーを入れて

目的の場所に向かっている

ヒールのかかとが取れかかっていた

新しいヒールが

欲しいと言っていた彼女は 

靴屋に行って

もっとみる
STAY GOLD 《詩》

STAY GOLD 《詩》

「STAY GOLD」

僕等は夢の中で生きている

いつも どんな時でも一緒だった

本当に不器用だよな お前は 
わかってるよ

機械的に暗記された即効性と

功利性志向に塗り固められた壁が
押し寄せて来る

其処には数値化された結果重視の
硬直性が澱み無く立ち塞がる

熟成した社会における例外は

致命的な悲劇であるかの様に評価され

其の人間固有の抱える
構造的な欠陥であり

社会構造内に

もっとみる