モンブラン 《詩》
「モンブラン」
ひとつの生き方を提示する様に
月の周りに虹の様な輪が見えた
何年も前からの
夏の幻影を見ている様だった
無価値で道徳心の欠片も無い
侮蔑された夜に月暈とは…
今夜は幸運が降り注いで来る予感がした
僕等は車のトランクに
バールとハンマーを入れて
目的の場所に向かっている
ヒールのかかとが取れかかっていた
新しいヒールが
欲しいと言っていた彼女は
靴屋に行って
あれこれ見回している
結局
ヒールは買わずにナイキの
スニーカーにするか
アディダスのスニーカーにするか
1時間も迷ってナイキを買った
誠実で柔軟で静かな
説得力を持つ朝日の中で
小さな猫が嘔吐している
いくら待っても燃え上がらない
燻った炎を見ている鴉
新しいナイキのスニーカーに
履き替えた彼女は
人殺し以外なら何でもやるわよ
そう言って微笑む
そして
時計じかけのオレンジを読み始めた
確か これで7回目のはず
政治家をライフルで狙撃する計画は
彼女の趣味では無いらしい
僕は計画を
変更するはめになってしまった
まぁ良いさ
片腕の浮浪者と片足の反社が
花も咲いていない桜の木の下で
酒盛りを始めた
夜空に星が輝き出した頃
月の周りには虹の様な輪が見えた
僕等は真っ黒で瞳の見えない
サングラスをかけて
駅前のケーキ屋さんを襲う
嘔吐していた子猫と
燃え上がる炎を待つ鴉の為に
世界はまんざらでも無いって事を
教えてやらなくちゃいけないんだ
其れが出来るのは世界で
僕と彼女だけなんだ
ターゲットは決まっているんだろう
ハニー
僕は彼女に尋ねた
もちろんだわ
そう言って
満面の笑みを浮かべて僕を見る
僕等はBMW2002に乗って
深夜のケーキ屋さんに向かった
ドキドキするよな 始めようぜ
手に持ったマイナスドライバーと
バールで
閉ざされたシャッターを
こじ開ける
そして
ショーウィンドウを叩き割り
ありったけのモンブランを盗んだ
海沿いの駐車場に2002を留めて
盗んだモンブランを貪り喰らった
何故モンブランばかりなんだよ
そう訊いた僕に
モンブランケーキの上に乗った
マロンが宝石の様に綺麗だから
そう彼女は答えた
とてもチャーミングな笑顔で
もう直ぐ朝日が昇る頃だ
誠実で柔軟で静かな
説得力を持つ朝の光に
モンブランケーキのマロンが
宝石の様に輝いている
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