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三文文士 《詩》

「三文文士」

演壇に立つ雄弁家の姿

過ぎ去りつつある時間が

誰かが捨てたキャンディの包み紙と
共に風に吹かれて

空っぽの街を流れて行く

我々の価値は
其の神話性の中にあるのだ 

演壇から熱弁を繰り返す男

写真家達が何度もしつこく
カメラの焦点を合わせる

ぎこちない微笑み 

自信に満ち溢れてはいるが

其の眼差しには
親切心の欠片も見えない


可哀想などうしようも無い奴 

僕は誰にも聞こえない様に
小さな声で囁いた

都会に対して抱く
あけっ広げのロマンチシズム

都市に身を委ね
東京と永遠の恋に落ちる

クリスタルの窓ガラス 街灯の光は
ダイヤモンドとなり輝いている

噴水の水は幾つもの小さな玉となり
光を受けて真珠に変わる

銀の食器に盛られた
食べきれない程の食事

誰かの肖像画が壁中に飾らせている


血の通った生命のある
今日の世界へようこそ

僕にそう声をかけてくれたのは

銀色のカメラを首からぶら下げた 
君だけだった

ねぇ 
君は雄弁家の写真を撮らないの?

そう訊いた僕に 

何故撮らなくちゃいけないの? 
そう君は答えた

僕等には僕等なりの価値観で
世界が成立している

周りでは人工的に都合良く作られた
お気楽な空騒ぎが続いていた

僕と君は街から少し離れた
場所にあるビルの屋上に
腰を下ろして

星が流れるのを待っていた

まるで何かの合図を待つ様に

自己陶酔的な気どりに過ぎない
言葉はもう聞こえて来ないよ

文学性を持たないただの
言葉を欲していた

相変わらず売れないものばかり書いてるよ

三文文士 悪くないだろう

だって何処には嘘がない 

作り話はいっぱい書くけど 
嘘とは違うんだよ

君は夢と嘘とは違う 
そう言って僕の腕に腕を絡めた

書きたい事だけ書いている僕と
撮りたいものだけを撮っている君

僕等はふたりで
チョコレート ミルク味の
キャンディを食べた

包み紙は風で
何処かに飛んで行って消えた

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