これは私だけの、と云いながら、その宝箱とやらをどうしても人の目前でぱっと開けて見せたくなるというのは、どうやら生来人間に根を張っている欲求らしい。たなごころ撰集だなんて、それっぽ…
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小説『安楽死装置に並んだけれども一向に列が進まない』
安楽死装置を無料で体験できると聞いて行くことにした。
どうせもうこの世に未練はないのだ。自分が死ぬことで離れて暮らしている親にも保険金が入るだろう。こんなことで保険金をもらったって嬉しくはないだろうけれども、何はなくとも先立つ物は大切なのだ。
会場に着いた。すでにものすごい行列だった。こんなにたくさんの人間が死のうとしているのかと思うとうんざりする。わたしばかりが死にたいのだと思っていたのに
CAさんがさっきから
CAさんがさっきから「お客様の中に云々」と言っているのでイヤホンを取って耳を澄ませると、「お客様の中に機長のお父様はいらっしゃいますか」と言う。いるわけないだろと思ったけれども、そういえばおれは機長のお父さんだったような気がしてきたので「父かもしれません」と名乗りあげると、「それはよかった、こちらです」と操縦室に案内された。
ドアをノックして「父だが」と操縦室に入っていくと、おれよりも明らか