みなさまのたなごころ撰集
これは私だけの、と云いながら、その宝箱とやらをどうしても人の目前でぱっと開けて見せたくなるというのは、どうやら生来人間に根を張っている欲求らしい。たなごころ撰集だなんて、それっぽい題をつける勿れ。電車に揺られながら、風呂上がりに上気した顔で、ついつい片手で波に乗っているうちにふと、気になる赤い点を遠くに認める、そうあっちの、さっきまで風が吹いてきた方の向こう岸に、と言って。なんとか近づいてみようなんて思うまでもなく、気がつけば自分の体はそこに在る。すぐそばに一輪の花を見つける。ひとつの珍しい貝を見つける。そして掬い取って、みる。砂がさらさらと指の隙間から落ちてゆくなかに、しかしその花は、貝だけは掌のうちに残る。たなごころ。なんてあたたかな音の並びでしょう。私だけの、いやいや、所詮はそのへんの道端に転がっている一読書家の悠長な蒐集なので、どうか悪しからず。