説那(せつな)
魔人の住む地ユグレイティを統べる魔王カミュスヤーナ、最後の物語。
短編小説の数が増えてきたので、短編小説以外の創作物をマガジンにまとめました。主は随筆(エッセイ)。
たまに書く読書感想をまとめました。でも、読書感想を書くのはちょっと苦手。執筆は不定期です。
2024年10月14日に完結。全27話。 何かと厄介ごとに巻き込まれやすい魔王カミュスヤーナ。 今回は同じ魔王ディートヘルムが、カミュスヤーナの伴侶テラスティーネに手を伸ばす。 「目が覚めたら夢の中」「魔王らしくない魔王様」に続く物語。
普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っている)分は外しました。
第6話 利点と欠点 「また、お兄様が何を言い出すのかとひやひやしました」 エルネスティーネが、オクタヴィアンの方を向いて、そう言った。 2人とも、既に家に戻ってきている。 「一応、内容として、まとまっただろう?」 「よく、即興であれだけのことを話せるのかが、不思議でなりません」 エルネスティーネがオクタヴィアンに向ける瞳に映っているのは、敬意と呆れだ。 今日、セラフィーナと話して、良かったことと、悪かったことが、それぞれある。 良かったことは、セラフィーナ自身も、血統を
第5話 歪んだ天仕の理 セラフィーナにとって、唯一の憩いの場所である図書館に足を踏み入れた。 もちろん、一般公開の時間ではないから、人は誰もいない。 そう分かっているのに、セラフィーナはある一角を目指して足を進める。 目指した一角には、見覚えのある水色の頭とプラチナブロンドの頭が見える。セラフィーナはそれを見とめて、思わず口角が上がるのを覚えた。 「セラフィーナ姫様」 「また、お目にかかれて嬉しいです」 2人は、セラフィーナに向かってその場に跪いて礼を取った。 「今日も調
私は今、人生の岐路に立とうとしてる。 フルタイム勤務に戻れなかったら、近々仕事を辞めることになった。体調が良くないから、無理を言って、時短勤務を認めてもらった。それを言った時点で辞めることになるだろうと思っていたのに、1年近く続けてきたのだから、別に驚きはしていない。 勤務先の社会保険に加盟できなくなり、住民税に加え、国民年金と国民保険も合わせて払うようになり、お金の面では働くことの意味を見出せない。仕事を辞めても、しばらくは生活していける。それくらいの貯えはある。住むとこ
「見知らぬ誰かとの片道書簡 赤崎水曜日郵便局」楠本 智郎編著 「赤崎水曜日郵便局」は今はありません。アートプロジェクトの名前で、2013年6月から2016年3月まで、活動していました。 水曜日の出来事を手紙に綴り、「赤崎水曜日郵便局」へ送ると、その手紙は転送され、手紙を書いた誰か宛に届きます。つまり、「見知らぬ誰かとの片道書簡」となります。転送する際に、個人情報は伏せられるので、その手紙を誰が書いたのかは、分かりません。 現在も、その手紙の原本は、熊本県「つなぎ美術館」
第4話 はぐれと純血統種 オクタヴィアンたちの報告を受けて、プラチナブロンドの髪に、赤い瞳の男性は、顎に手を当てて、考え込むようなしぐさを見せる。 彼らたちの父親、魔人の住む地ユグレイティを治める魔王カミュスヤーナ、その人である。 「はぐれと純血統種を見分ける方法、か」 「お父様なら何かわかるのではないかしら?」 水色の髪、青い瞳の女性が、カミュスヤーナの隣で微笑む。オクタヴィアンたちの母親、テラスティーネだ。 「疑問に思ったことは、即、解消しておかないと」 テラスティ
第3話 ここに来た理由 「何をやっているのですか。お兄様」 目の前で、エルネスティーネが目を吊り上げて言い募る。まったく怖くなくて、可愛いくらいなのだが、まぁ、そう言われるようなことをオクタヴィアンはした。 「すまない。つい出来心というやつ?」 「だからって、王族の姫に、術をかけたらだめでしょう?」 確かにエルネスティ―ネの言うとおりだ。セラフィーナと見つめ合っていたら、術をかけてしまっていた。かけてはいけないのに。 オクタヴィアンたちは、天仕と魔人の血を引く父親と、天
今までの経験上、勉強するのであれば、「勉強するのが好き」になれば、今よく言われているタイパもコスパもあがる。それはなぜか? 勉強を誰か好きな人に例えてみよう。好きの度合いは問わない。友達としてでも、恋人としてでも、家族でも、仕事仲間でも。好きな人ともっと仲良くなりたいなら、相手のことを知りたいと思わないだろうか?そして、相手と過ごす時間を何とか作ろうと努めるだろう。 勉強とは知らないことを知ることだと思う。勉強を好きになれば、好きなことは頭に定着しやすいし、勉強するのが楽
第2話 王宮図書館 今日も変わらず、とても静かで穏やかな空気が満ちている。 曇りガラスではあるものの、大きくとられた窓からは、外から柔らかな日差しが差し込んでいる。 セラフィーナは、後ろに控えている侍女に分からないよう、深呼吸する。 大好きな本の香り。いつ、かいでも、落ち着く。 「姫様。お時間までには戻ってきてくださいね」 侍女がセラフィーナに向かって声をかける。下手をすると、本に夢中になって、時間を無視する彼女に楔を打っているのだ。セラフィーナは侍女に向かって手を振る
第1話 プロローグ ここは、天仕の住む地、王宮図書館の中。 図書館の天仕に関する書物が集まる一角での会話。 「まったく、父上も、お爺さまも人使いが荒いんだよなぁ」 「お兄様。ぶつぶつ言っていないで、手を動かしてくださいませ」 「ちゃんと読んでるよ。目当ての書物は見つからないけど」 「内容覚えてます?『はぐれ』に関する情報ですよ」 「分かっているよ。情報収集なんてしなくとも、全て壊してしまえばいいのに」 「それは……同意したい気持ちはありますけど」 「だろう?お爺さまやおば
いつも、私の創作物を読んでくださる方、スキ・コメントをくださる方、フォロワー様、こんにちは。説那です。 来週から、大学の課題の方を今以上に進めていきたいので、今月は早めに月一回の随筆をアップすることしました。正直言って、今月初めはあまり進んでない。。夏期と同じような状態になりそうです。つまり、来月の忙しさが半端ないということ。でも、夏期の忙しさにもかかわらず、全部提出して、合格できてしまったので、それで調子に乗ってる?のもあるかもしれません。「なんとかなる」と考えることはよ
「もし、何か一つ、麻生さんの願いを叶えてもらうとしたら、何を願う?」 久しぶりに会った、もう会うことはないだろうと思っていた相手が、そう言って、薄く笑う。 「一つの願い事?」 「そう、何でもいいの。前に語ってくれた夢を一つ叶えてもらう?」 「……夢はそんな風に叶えるものでもないし、そもそも他人に叶えてもらうものじゃない」 そう、麻生が答えると、「まぁ、確かにね」と相手も納得したように頷く。 「なら、夢を叶える第一歩で、お金を望んだら?」 「確かにお金は必要だけど、
第27話(最終話) 恋愛なんてよく分からない 「ディートリヒ様!」 名を呼ばれて、振り向いた先には、満面の笑みを浮かべたシルヴィアの姿があった。彼女はディートリヒが腰かけたベンチの隣に陣取る。 「婚約者が、私がこの先、魔道具を作成するのを許してくれることになりました。それだけでなく、ちゃんと院も卒業させてくれると、私に約束してくれたんです」 「……それは、よかったな」 「テラスティーネ先生に聞きました。ディートリヒ様が働きかけてくださったのだと。テラスティーネ先生は、デ
第26話 秤 ディートヘルムから話を聞き取ったカミュスヤーナは、大変大きな重い息を吐いた。テラスティーネも2人に心配げな視線を向ける。 「シルヴィアをアンガーミュラーに連れて行くことに、私は賛成できない」 「なぜ!」 その場に立ち上がって、カミュスヤーナに食ってかかるディートヘルムに、彼は掌を向け、落ち着くよう促す。 「シルヴィアは魔力量が人並みだと言う。ただでさえ、人間は魔人より魔力量が少ないし、寿命も短い。魔力量の多さで力量を図る魔人の住む地で暮らしていけるとは思え
第25話 解術 玉座に深く腰掛け、目を瞑って、膝の上で手を組んでいた魔王ディートヘルムは、ハッとしたように目を開いた。 宰相カルメリタが、その様子を見て、口を開く。 「いかがなさいましたか?ディートヘルム様」 「術が解かれた。思ったよりも早かったな」 「……御身にご不調は?術を無理やり解かれたのでしょう?」 「覚悟はしていたが、多少ふらつく程度で、思ったほどではないな」 無理やり力づくで解いたのではないのか? 無理やり破った術は、術をかけた当人に返る。本来であれば、ディー
第24話 混乱 寝台の上で向かいあって、試験管に入った赤い液体を飲み干したテラスティーネが、ふっと意識を失ってから、カミュスヤーナは彼女の目覚めを、固唾を呑んで待っていた。 赤い液体は、状態異常回復の薬。あちこちを巡り集めてきた素材を用い、院の薬学研究室の調合室で、何とか作り上げたものだった。それほど量はできなかったが、素材はまだ残っているから、何かあった場合は再度薬を調合することは可能だ。薬の作成方法は、別途記載して残してある。 とはいえ、この薬が効かないと意味がない。
第23話 別れ テラスティーネ。 自分の名を呼ぶ声に振り替えると、そこには最愛の人が立っていた。ブラチナブロンドの髪、赤い瞳。彼は整った顔だちに、冷たい眼差しを載せて、こちらを見つめている。 カミュスヤーナ。 彼はつかつかと私の元まで歩いてくると、テラスティーネの頬に自分の手を伸ばした。 カミュスヤーナ? テラスティーネ。そなたここで何をしている? テラスティーネは、カミュスヤーナの表情を見て、ハッとしたようにその青い瞳を見開いた。 私は、カミュスヤーナの力にな