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創作ものがたり

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#恋愛

小指の先に結ぶ我儘を

小指の先に結ぶ我儘を

「結婚…するんでしょ」
「……まだ、しない」

歯切れの悪いその言葉に、腹が立つ。
でも好き。
私は彼女がとても好き。

抱きしめられた時の温もりが
シャンプーの香りが
寝る時の吐息が
全てが私をドキドキさせる。

「…何よ、まだって」
「だって、まだなんだもの」

彼女は私に背を向けて寝転がる。
私も同じ布団に入り、彼女を抱きしめた。

「…ごめん」
「…ううん」

いつかは、私の横から居なくな

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認めたくないあいつ

認めたくないあいつ

下の顎にあいつが出来た。
私は慌ててビタミン剤を飲む。
困る!週末には大好きな阿部くんとデートなのに!

そういう時に限って出来るんだよね。
本当困る。

私は顎のあいつを触りながら鏡を見た。

え?なんでちゃんと名称で言わないかって?
絶対嫌。なんかこいつを認めた気がするから。

治っても治ってもすぐ出来て、挙句の果てに肥大化して増えたりする。
なんなの。水もいっぱい飲んでるし、基礎化粧品だって

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その声に従うの

その声に従うの

いっぱい食べる君が好き

その歌声がとても好きで

いっぱい食べようと思った

確かに我慢をする方が太るって言うし、
私的にも変なストレスを溜めたくない。

だからいっぱい食べようと思った

今日もまた聞こえてくる

「いっぱい食べる君がすき~」

私の愛する歌声がそういうんだもの。

いっぱい食べなきゃダメ、よね。

私は目の前にあるハンバーグをナイフで切りフォークでさす。

そしてそのまま口内

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画面が割れる理由

画面が割れる理由

携帯のケースを買った。
ずっと前から狙っていた、落としても画面が割れにくいというケース。

何故か分からないが、俺の携帯は落ちやすい。
俺の持ち方が原因かもしれないが、
それにしてもよく落ちて画面が割れてしまうのだ。

いい加減不便で困るし、それを防ぐという意味でもしっかりしたのが欲しかった。

元々俺はスマホケース否定派で、無しの方が持ちやすいし、何よりスマホリングが付けやすいので好きだった。

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届いたりんごの行方

届いたりんごの行方

実家から沢山のりんごが届いた。

「いや…嬉しいよ、嬉しいんだけど」

段ボール1箱分のそれは、一人暮らしの許容量をゆうに超えていた。
数にして30個。
1日1個で1ヶ月。

「りんご好きなら…行けるのか…?」

そう思いながらまずは1つ、皮をむいて食べた。
昔母から教わった、簡易的なりんごの剥き方。
アニメのようなとぐろを巻いた皮は出来ないけど、
しっかり溜まった蜜を逃がさない、そんな剥き方。

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先輩の延長コード

先輩の延長コード

延長コードが壊れた。
もう代替も無いし、正直ショック。
いや、新しいの買えばいいんだけど。
この延長コードだけは、なんというか。
壊したくなかったっていうか。

「これ、先輩にもらったやつなのに」

とある高2の夏休みの合宿。
私は小説を書くことを主に活動している「ストーリー部」の部員だったんだけど、小説を書くための合宿で
憧れの佐藤先輩と同じグループになったの。

合宿先は長野県の高遠。
自然が

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橋にまつわる男女の話

橋にまつわる男女の話

それは、ひどい雨の中。

女は、言った。
「相変わらず雨男なのね」

男も、言った。
「相変わらずってなんだよ。たまたまだよ」

女はお気に入りの赤い傘を少し回しながら
男は使い込んでボロボロになった傘を

それぞれ差しながらここへ来た。

ここは2人の思い出の地。
少し坂を上った所にある、橋の中心。

雨で川の水が増え、ここへ来るのにも危ないぞ、と何度も声をかけられた2人。

それを無視して、傘

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それは"彼女"が座る椅子

それは"彼女"が座る椅子

夜。外は暗い。
会社に残ってるのは俺灰谷と、横の女葉山。
前には、背もたれ付きの椅子がある空いた席。

そこに座っていた、如月アミがいなくなった。

正式に言うと、3日前から来なくなった。
噂によると連絡もつかず黙って辞めたらしい。

そんなような事をする子では無いと思うのだが。
ただ、別に俺も特別話したことがある訳では無い。ご時世で、必要最低限の会話しかしなくなったから。

ただ、愛嬌があって好

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毒の花

毒の花

「あなたは私を愛していますか?」

ここは高級ホテルのスイートの部屋。
彼女は夜景と月明かりを背に、僕に一言尋ねた。

「うん、勿論」

僕は一言、そう答えた。

「なら、この花を受け取ってください」

そう言って彼女は僕の前に一輪の
紫の様な黒のような、不気味な色をした花を出した。

「何、この花」

「私を愛しているなら、受け取ってください」

僕は少し、その花に嫌悪感を抱いた。

「愛してい

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マグネットトライアングル

マグネットトライアングル

部屋に男女。
男性、床に座りながら読書をしている。
女性、ソファーの上で寝転びながら磁石をいじっている。

「磁石ってさーなんでくっつくんだろうね」
「S極とN極…もとい磁力だろ」
「いやそんなことは分かってるけどさ、凄くない?」
「まぁ、発見した人はすごいよな」
「いーなー私も世紀の大発見したいな」
「もうほとんど出尽くしてるよ。そんな簡単に見つかったら苦労しない」
「そんなこと知ってるよ。直之

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君は蛇

君は蛇

歩み寄って寄り添って
ようやく近づけたと思っても
ふとした瞬間に離れていく

見た目とは反して実は臆病な
そんな君に惹かれていく

絡みつきたくなる衝動そのままに来て
その可愛い瞳でまっすぐ私のことだけ見てくれていたらいいのに

不安なんていらないよ
心配しなくていいよ

私は君が大好きだよ

君が私の温もりを感じて生きていく
そんな日をいつか夢見てる

君は蛇

私は人

それでも君を愛してる

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落ちないシミ

落ちないシミ

お気に入りのTシャツにシミがあった。
原因は分からない。
なんのシミかも分からない。

ただ、そこに、あるシミ。

1度洗ってしまったが故にもう落ちないシミ。

位置も位置でTシャツのド真ん中。

最悪。

落ちない。

いくら洗っても落ちない。

洗剤をつけて擦っても、重曹をつけても、
何しても落ちない。

でもクリーニングに出したくない。

誰かの手で落とされるくらいなら
私が意地でも落とした

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雨と錠剤、夏の性。

雨と錠剤、夏の性。

「それにしてもさ、女は楽でいいよな。ピル飲んでおけばいいんだから」

私は、その男の言葉に腹が立ちました。

だってそうでしょう?
勝手に人の中に出しておいて、笑いながらそんなこと言える神経はきっとどうかしている。

曇った空の下、私の部屋で笑いながら、男は脱いでいた服を着る。

正直私はこの男を好いていた。
いや、より正しく言えば、気になっていた。
天真爛漫で笑顔が絶えない人。私には無いものを持

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最期は君と近くで話したい

最期は君と近くで話したい

今から君に僕のタイムリミットをお見せしよう

僕に残された時間が僅か60秒になるからだ

いつから見えるようになったかは忘れたが
とうの昔のことだったと思うよ

だから最期になるであろう今日の今、
僕は君のもとへやってきたんだ

君は僕に何をしたい?

何だっていい
恨みがあるなら殴ってもいい
むしろそれは今やらないと永遠に後悔するぞ
だって僕はもうすぐ0の瞬間を迎える

この命の終わる瞬間を

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