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落ちないシミ


お気に入りのTシャツにシミがあった。
原因は分からない。
なんのシミかも分からない。

ただ、そこに、あるシミ。

1度洗ってしまったが故にもう落ちないシミ。

位置も位置でTシャツのド真ん中。

最悪。

落ちない。

いくら洗っても落ちない。

洗剤をつけて擦っても、重曹をつけても、
何しても落ちない。

でもクリーニングに出したくない。

誰かの手で落とされるくらいなら
私が意地でも落としたい。

得体の知れないシミと格闘して数時間。
どう足掻いても薄くもならない。

あぁ、もう嫌だなぁ。

どうして落ちてくれないの。

どうして消えてくれないの。

大嫌い。こんなしつこいシミ。

零れて落ちて浸透して絶対に消えてくれないこんなシミ。

でも捨てたくない。
こんなシミでも、捨てられない。

捨てて逃げたら、あいつと同じ人間になるから。

私の脳に勝手に、嫌なくらい幸せなシミを残して
私を捨てたあの男と同じ人間になるから。

あいつだって
誰かの手に渡るくらいなら
本当は私が

落ちないシミを眺めながら私は風呂場で1人
重曹を溶かした湯が入る洗面器の前に立ち
その湯を自分にかける。

それでも落ちないこのシミは一体何なのよ。

消えてなくなってしまえばいい。
そう思うのに消せないのはどうしてなの。

ド真ん中についたまま消えてくれないのは何でなの。

ふと横を見たら
全身ずぶ濡れになった私が鏡に映っていて
誰もいない風呂場で1人、私は笑った。

クリーニングには出さない。
意地でも私がこのシミを落とす。

落ちないシミはきっと無い。

いつか薄れてきっと消える。

いつか、きっと

消えてくれる。

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