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マグネットトライアングル


部屋に男女。
男性、床に座りながら読書をしている。
女性、ソファーの上で寝転びながら磁石をいじっている。

「磁石ってさーなんでくっつくんだろうね」
「S極とN極…もとい磁力だろ」
「いやそんなことは分かってるけどさ、凄くない?」
「まぁ、発見した人はすごいよな」
「いーなー私も世紀の大発見したいな」
「もうほとんど出尽くしてるよ。そんな簡単に見つかったら苦労しない」
「そんなこと知ってるよ。直之って本当固いよね。ちょっとくらいノってきてくれてもいいのに」
「現実主義者と言ってくれ」

直之、パラパラと本を捲る。

「もうその本だってさ、何回も読み終わってるやつでしょ。なんで読むの」
「面白いものは何度だって読むさ」
「意味わかんない時間の無駄じゃん」
「面白いものはなぜ面白いのか、それを考えることに無駄なんてないんだよ、沙知。そもそも、読めば読むほど謎が出てくるんだ、これは」
「謎が出てくるの。めんどくさ」
「面倒とはなんだよ。沙知がしたがってる発見とはこういうことだよ、これこそ」
「どういうこと?」
「一見いつもと同じような内容から、新しい謎が見つかる。発見だ」
「はぁ」
「つまり、日常を今こうして当たり前のように生きているけども、その中によくよく見れば世紀を変える大発見があるかもってことだよ」

本を閉じて歩き出す直之。
近くにあるデスクの上のペットボトルの緑茶を飲む。

着いていく沙知。

「なぜ着いてくる」
「私世紀の大発見しちゃったかも」
「今唐突に?そんな訳あるか」

バカにしたように笑う直之。
沙知、ポケットから磁石を取り出しくっつける。

「磁石がくっつくのは?」
「磁力」
「引き合うのは?」
「S極とN極」

沙知、磁石を離して直之に抱きつく。
抱きついた先の手でまた磁石をくっつける。

「あ」
「わかった?」
「…くだらねぇ~」
「くだらないとは何よ。こういうことでしょ。一見同じような日常に潜んでる、発見」
「別に俺と沙知は引き合ってないよ」
「引き合ってるよ!惹かれあってる?」
「調子乗んな」

直之、沙知の頭を優しく叩く。
ニコリと笑う沙知。

「それでも離そうとはしないんだね」
「はいはい」

直之、沙知を引き連れてソファーに座り再び読書をする。
見つめる沙知。

外から雨の音。

2ヶ月後。

喫茶店内、テーブルを間に向かい合う2人。

「直之、私直之と別れたい」
「どうした急に」
「気付いてしまった。私」
「何に」
「私たちの同極」
「はぁ?」
「私は佐川沙知。直之は宗田直之」
「さがわと、そうた、Sってこと?」
「うん」
「え、それだけ?」
「うん」
「なんだそれ、アホらしい」
「アホらしくなんてないよ。だって今日告白された人は根元伸行くんで、全部対極だったんだもん」
「え、何、それでその人に引かれた…もとい惹かれたってこと?」
「そういう訳じゃないんだけど。何となく、その方がいい気がしたんだよね。ほら…直之あまり私の事好きじゃなさそうだし…」
「はい、沙知」
「はい、直之」

息を吸う直之。そして吐く。

「俺は同極を持ってても沙知に惹かれてるよ」
「え」
「同極なのにくっつくのは、世紀の大発見だと思うよ、俺は」

直之、立ち上がる。

「え」
「以上、終わり」
「え、待ってよ」
「だって沙知は惹かれ合う対極の人の方に行くんでしょ」
「行かないっ行かないよ!今の言葉聞きたくて、嫉妬してくれるかなぁって、そう思っただけ……それだけで…私…」

沙知、泣き出す。

「バカだなぁほんとに」

直之、沙知の頭を優しく叩く。

「同極が入ってることなんて、あの時からずっと気付いてたよ」
「……」
「寂しくさせて、ごめんな」

泣き続ける沙知。
沙知の頭を撫で続ける直之。

外は晴れている。

窓の外、遠くから2人を見つめる根元の姿。
下唇を噛みながら呟く。

「話が違うじゃん、沙知さん」

END

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