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先輩の延長コード

延長コードが壊れた。
もう代替も無いし、正直ショック。
いや、新しいの買えばいいんだけど。
この延長コードだけは、なんというか。
壊したくなかったっていうか。

「これ、先輩にもらったやつなのに」

とある高2の夏休みの合宿。
私は小説を書くことを主に活動している「ストーリー部」の部員だったんだけど、小説を書くための合宿で
憧れの佐藤先輩と同じグループになったの。

合宿先は長野県の高遠。
自然がたくさんで本当に良いところ。
空気が澄んでて、物語が進む進む。
ご飯みたいな言い方しちゃったけど、本当進むの。

先輩もいたしね。余計ね。

ご飯を作っている時、スマホの充電が無くなったことに気付いて充電しようと思って、少し離れたところにあるコンセントにスマホを繋いでそこを行き来していたの。

そしたら先輩がね。

「これ、貸すよ。使ってよ」

そう言ってくれたのが、この延長コード。

でも、戻ってよく見て。

「これ、貸すよ」なの。

だからね、これ、私借りただけなはずなのに
こうして持っているのはおかしいよね。

そう、おかしいの。
でも持ってるの。

持って帰ってきちゃったのー!!!!
返すの忘れたフリして、持って帰ってきたのー!!
合宿終わってから返すために
話すきっかけになるかなと思って持って帰ってきたのー!!

でも聞いて。
合宿はもう3か月前の話なのー!!!

そう、私は返し方に悩んだ。
手紙をつけようかお菓子をつけようか
紙袋がいいかラッピングがいいか

でもその間、どうしても先輩の延長コードを使ってスマホを充電したくって。だから私は使ってたの。

そしたら壊れちゃった。
どうしよう。

新しいのを買うべき?
でももしかしたらもう新しいの買ってる?
でも返さない後輩って思われていたら嫌だし。

私はまた悩む。
壊れた延長コードを見て、悩む。

でも悩んでても仕方ないと思って、
ストーリー部の親友、正美に相談することにした。
正美は何個も小説で賞を獲る、自慢の友人。
大して私は1回も獲ったことなくて…
ってそんな話はどうでもいいの。

「…というわけなんだよね、どうしたらいいかな」

正美を学校のロータリーの端のベンチに呼び、
延長コードを出して聞いてみた。

「…いやー。まずそんな返し方うんぬんじゃなくて、謝るべきだよね」
「そうだよね…」

私はふぅとため息をついた。

「でもさ」

正美はため息をつく私の肩を叩いて笑いながら言った。

「せっかくわざとパクってきたのに、夏休みの思い出は延長、出来なかったね。ドンマイ」

何そのワードセンス。
腹立つ。

すっごい腹立つけど、上手すぎない????

私は壊れた延長コードを先輩に見せて謝り、
同時に気持ちを伝えた。

もちろん、振られた。

あーあ。
延長できなかったし断線したし。

私の恋は使い古しの延長コード。なんて。

あ。小説、書こ。

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