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弱おじの本棚

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2023年3月の記事一覧

言葉が誰かを救っていく 〜「ジャクソンひとり」を読んで〜

言葉が誰かを救っていく 〜「ジャクソンひとり」を読んで〜

安堂ホセさんの「ジャクソンひとり」を読んだ。
人って一括りにしてしまうものだよなと感じた。

例えば外人さんがそこにいれば、「外人さん」だと認識してしまう。
その人が道端に唾とか吐いてたら、「やっぱ外人さんってマナーが悪いよね〜」とか思っちゃうだろう。

人は括ってしまう。
そして、そのフィルターを通してしまうから、ありのままで目の前の人と向き合うことは難しい。

同じ日本人でもそうだろう。
例え

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運命で決まってるからこそ気楽に生きていい。 〜「掏摸」を読みました〜

運命で決まってるからこそ気楽に生きていい。 〜「掏摸」を読みました〜

中村文則さんの「掏摸」を読みました。

まず、スリの描写がリアルすぎてすごいです。
実際にやったことないのに、スリした気分を味わえてしまいます。

背景に「抗えない運命」みたいなテーマがあって、とても好きです。
スリしないで生きられる人もいれば、スリしなきゃ生きられない人だっている。
きっとその差はほんの僅かなもので、自分がもしかしたらする側の人間になっていたかもしれないし、これからの人生でしない

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僕は村上春樹を読むという人生の選択をした。 〜「一人称単数」を読みました。〜

僕は村上春樹を読むという人生の選択をした。 〜「一人称単数」を読みました。〜

村上春樹さんの「一人称単数」を読みました。

久しぶりに村上春樹さんの小説を読みましたが、やっぱいいですよね。
なんか、村上春樹読んでるわー。って感じで。

人生にあるいくつかの大事な分岐点。
そして私は今ここにいる。

これまでの人生でたくさんの分岐点があり、これからの人生にもきっとたくさんの分岐点があります。

それをどう選んでいくのか。
どう生きていけば後悔は少なくなるのか。

結局、その時

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なんか死生観について考えちゃった。 〜「アヒルと鴨のコインロッカー」を読みました。〜

なんか死生観について考えちゃった。 〜「アヒルと鴨のコインロッカー」を読みました。〜

伊坂幸太郎さんの「アヒルと鴨のコインロッカー」を読みました。

2年の時差がある2つの物語が交互に進んでいき、それがバチッと合わさって謎が解けていく、気持ちいい小説です。
カットバック形式と呼ぶらしいです。

切なさもあり、時々ふと笑える文章もあり、楽しく読み終えました。
文章でトリックを仕掛けられる才能が素晴らしすぎです。

登場人物にブータン人が出てきます。
ブータン人は「生まれ変わり」を信じ

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トラウマがない自分の人生は幸せ 〜「最後の命」を読みました。〜

トラウマがない自分の人生は幸せ 〜「最後の命」を読みました。〜

中村文則さんの「最後の命」を読みました。

幼い頃にレイプの現場に遭遇して、そのトラウマに苦しんでいく主人公たちの話。

ヘビーです。
狂わなきゃ生きていけないほどのトラウマ。
僕には想像できないほど、めちゃくちゃしんどいのでしょう。いや、きっとしんどいなんて言葉では表しきれないのでしょう。

いっそ死んだ方が楽だ。
そんな苦しみを抱えながら日々ギリギリで生きている人たちが、この世界にはたくさんい

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今いる場所をユートピアだと言うときや。 〜「ユートピア」を読みました〜

今いる場所をユートピアだと言うときや。 〜「ユートピア」を読みました〜

湊かなえさんの「ユートピア」を読んだ。

「ユートピア」とは、想像された理想的社会、理想郷を意味するらしい。

人生におけるユートピアについて、深く考えさせられた。

物語に出てくる人たちは、ユートピアを求めて舞台となる場所へ移り住む。
でも紆余曲折あり、結局違うところへと出ていってしまう人もいる。

人は無い物ねだりだ。
足りないものばかり見えてしまう。
ユートピアに辿り着いても、そこでまた不足

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コロナ禍を思い出す時に、きっとこの物語を思い出す。 〜窪美澄さんの「夜に星を放つ」を読みました。〜

コロナ禍を思い出す時に、きっとこの物語を思い出す。 〜窪美澄さんの「夜に星を放つ」を読みました。〜

窪美澄さんの「夜に星を放つ」を読んだ。

5篇の短編が収められていたが、どの物語も僕の心を優しく照らしてくれた。

コロナ禍が小説の背景とされている部分が印象的だった。
今、マスクの着用が強制されなくなり、徐々に以前の日常を取り戻しつつある。
けどこの数年で味わった苦しみ、悲しみ、やるせなさ、どうしようもない無力感。
忘れたいようで忘れたくなくて、きっと心の片隅に閉じ込めたまま、これからも生きてい

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普通の人間なんてこの世界にはいないから。 〜「こちらあみ子」を読みました。〜

普通の人間なんてこの世界にはいないから。 〜「こちらあみ子」を読みました。〜

今村夏子さんの「こちらあみ子」を読みました。
数年前にアメトークの読書芸人で紹介されていた本で、映画化もされているようです。
ずっと気になってた本で、やっと読むことができました。

主人公のあみ子が超絶に変わっています。
そこに対する周囲の反応。

僕はあみ子ほど変わっている人間ではないと自負しているので、どちらかといえば周りの人間の視点から読書を進めていた気がします。
こんな子が近くにいたらキツ

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自意識エモい。 〜「オレンジ・アンド・タール」を読みました〜

自意識エモい。 〜「オレンジ・アンド・タール」を読みました〜

藤沢周さんの「オレンジ・アンド・タール」を読みました。
大好きな芸人、オードリー若林さんの推薦本です。

若者特有の自意識が描かれていて、「エモいわ〜」と思いました。
生きづらかったあの頃。
その根底にあったのはきっと自意識で、今はだいぶ人生と折り合えているのかなぁと、なんだか懐かしい気持ちになりました。

自分ってなんだろう?
生きるってなんだろう?
社会って?世界って?他人って?幸せって?

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今こうして生きてるのってけっこう奇跡で有難い。 〜「ふる」を読みました。〜

今こうして生きてるのってけっこう奇跡で有難い。 〜「ふる」を読みました。〜

西加奈子さんの「ふる」を読みました。

「今を生きる」ということの大切さ、そして与えられている奇跡について改めて感じさせてくれました。

こうして生きてるのって、奇跡です。
こうして今まで生きてきたのって、奇跡です。

顔も思い出せないような多くの人たちとの関わり合いの中で、これまでの人生が紡がれてきました。
そんで今、こうして生きてる。
奇跡です。素晴らしいです。

きっとこれからの人生も、色々

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弱さがあるから人を愛せる。 〜「憐憫」を読みました。〜

弱さがあるから人を愛せる。 〜「憐憫」を読みました。〜

島本理生さんの「憐憫」を読みました。
島本さんの作品を初めて手に取ったのですが、とても文章が綺麗で引き込まれてしまいました。

タイトルがいいです。
「憐憫」
ふびんに思うこと。あわれみの気持ち。

女優としてもがく女性と偶然巡り会った年上の男性。
よく見る純愛のラブストーリーとはまた違った、憐憫から生まれる愛おしさがそこには描かれています。

可哀想で愛おしい。
守ってあげたい、とはまた違う。

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