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となりの扉【ショートストーリー】

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ちょっとしたワンシーンをつないでみる小説 キーワードでくっつけながらのお題目小説といった感じです。
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#創作

メリークリスマス フォーユー 【短編小説】扉①

メリークリスマス フォーユー 【短編小説】扉①

となりの扉①

メリークリスマス

季節外れのこんな時期に何を言ってるんだ。

もう何もかもめんどくさくなって、

部屋の片隅でほこりにかぶったままの

小さなクリスマスツリーを見て思う。

それは11月のことだった。

「ねぇ?可愛くない?」

そういって私はクリスマスツリーを手に取った。

よくある卓上のタイプで

電源を入れるとブルーのライトに光る。

「お!いいじゃん、買おうよ!」

部屋

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ギブミー ハムスター 【短編小説】扉②

ギブミー ハムスター 【短編小説】扉②

となりの扉②

ぜいたくな悩みだと思うわ。

指にはめた結婚指輪をながめながら、

私ははため息をついた。

友達の茜には少なくとも帰りたい部屋がある。

私は…

部屋をながめて、言葉につまる。

「帰り、たいかな?」

6年前に結婚した。

その半分は残業続きと休日が合わずに、

すれ違いの日々が続いた。

これではいけないと、仕事の調整をして、

彼の仕事に合わせたはずだった。

だった…。

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ラブミー マイルーム 【短編小説】扉③

ラブミー マイルーム 【短編小説】扉③

となりの扉③

ガチャガチャ、

その音がすると、突然周りが明るくなる。

いつもの決まり。

ほどなくして、私のお部屋の前に大きな影がのぞき込む。

けど、この影は平気。

いつも私のお家をのぞき込んでいくだけ。

私もなんだか楽しくて、

最近は待ってる時もある。

だって、この影は美味しいのものくれるから。

私の好きなものは甘くて大きい、真っ赤な色の食べ物。
サクサクしてるけど、美味しくて

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アエナイふたり【短編小説】扉④

アエナイふたり【短編小説】扉④

となりの扉④

転勤の知らせを受け取った時、

終わったと思った。

どうしても仕事での成果が欲しかった。

だが、2つ年下の優羽との結婚生活はあまりうまくはいってなかった。

2つ同時には選べない。

意地悪な上司だ。

順調に結婚して、仕事をしてる俺がねたましいんだろう。

考えたところで、答えが出るわけではない。

転勤して出世するか、しないか、
そのはてに、離婚するか。

「わかりました」

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キュウクツなおとな 【短編小説】扉⑤

キュウクツなおとな 【短編小説】扉⑤

となりの扉⑤

好きだなって感じると、

きゅって、よっていきたくなるタイプ。

だって、好きなら一緒にいたいって思うでしょ?

「今度旅行行こうかと思うんだけどさ、ハムスターあずかってくれない?」

会社の先輩の瑛太さんが声をかけてきた。

それなりの爽やかさ、それなりのイケメン。
結婚してる素敵な人。

けど、ハムスターには思い入れがあった。
大切にしてあげなきゃいけない。

「ほかに頼める人

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アイする自宅警備隊 【短編小説】扉⑥

アイする自宅警備隊 【短編小説】扉⑥

となりの扉⑥

「ちょっと通りにくいと思いますから、いくらちゃんのケース縦に持ってもらっていいですか?」

外への出入り口の方で、
ガタガタ音がする。

そっちの方は危険なのに。

そう思いながら、真っ暗な部屋の中で、
薄明かりに照らされる入り口の様子を見る。

様子を確認して、
安全を守る。

それは私にとって、とても大事な仕事だ。

私の大事な楓を守るためには、
日夜部屋の安全確認はおこたれな

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ユメのおはなし【短編小説】扉⑧

ユメのおはなし【短編小説】扉⑧

となりの扉⑧

綺麗って何かしら?

私にはこのスタイルしかないのに。

ひらひらして、キレイとか。

ふわふわしてて、繊細とか

わからないけど、私は私でしかない。

部屋の電気がパチっとつく。

朝?

でも、もうすぐごはんの時間。

とろとろとした短い睡眠時間は

明るさと共に消え去る。

水の中、ふわふわを踊りながら

舞ってくるご飯を食べる。

水草の中

現れながら

今という時間を楽

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はじまりのハニーラテ 【短編小説】扉⑨

はじまりのハニーラテ 【短編小説】扉⑨

隣のとびら⑨

「じゃあ、僕とかどうですか?」

ケーキ片手に、何言ってんだ。
心の中で思う。そんなこと言えるタイプだった?
いや、言ったの自分だし。

なんでもない風な顔を作ってる内心焦ってる、自分で自分に焦ってる。
涼しい顔で、彼女の目の前にケーキを置いてみる。

今の今まで仕事中だった。
いや、今も仕事中。
喫茶店でウェイターをしている。

入ってきた時から、目を引く美人だなと思った。
顔が

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恋と声とタマゴサンド【短編小説】扉⑩

恋と声とタマゴサンド【短編小説】扉⑩

となりの扉⑩

「気持ち打ち砕いちゃったんじゃないの?」

この子は、なぜ私に恋愛相談を持ちかけてるんだろう?
そう思いながらも、真面目に返事を返す。

私が真面目にお皿を洗い、仕事をこなしている間に、
今、目の前にいる一回り以上年下の同僚 浩介くんは、
仕事場の喫茶店で、たまに見かける可愛いお客さんの女の子 楓ちゃんをナンパしてきた報告をしている。

いや、ナンパし損ねた報告かな?

「彼女が僕

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星空コーヒー【短編小説】扉⑪

星空コーヒー【短編小説】扉⑪

となりの扉⑪

「ただいま〜」

ドアを開けると、微かな爪の音ともに
前から愛しい人が歩いてくる。

フワフワでクリーム色の大好きな彼。

会うなり、ふんわりとした体を抱きしめる。

「会いたかったよ〜」

「そう思うなら、もう少し実家に帰ってきたら、どうだ?」

実家で飼っている愛犬ゴールデンレトリバーのセンスを抱きしめている私を見下ろしながら、父の創一郎が言った。

「私だって、いろいろ忙しい

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アコガレのブタイ【短編小説】扉⑫

アコガレのブタイ【短編小説】扉⑫

となりの扉⑫

素直に自分の意見をいえなくなったのは、
いつからだろう。

思い出せない、クセみたいなもの。

小学生の頃に、両親が離婚した。

母は何も言わない強い人であった。
けど、言葉にならない不穏な空気が、いつも部屋の片隅にあるような気がした。

両親は仲が良く、おだやかな性格だった。
けど、それは突然私の目の前に現れて
決断をせまった。

両親は2人。
父が1人、母が1人。
あなたはどち

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ミュート 【小説 幸せの復讐①】

ミュート 【小説 幸せの復讐①】

私は人に好かれる自信がなかった。

目の前に人がいると、何を話していいのかわからなくなってしまう。
言葉が出てこないわけじゃない。
むしろ文章は私の力で、小説は私の友。
言葉の表現には少し自信がある。

けど、何を出したらいいのかわからなくなってしまう。
だから、ミュートにしてしまう。
思わないわけじゃない。ただ音にならない。

出していい話題がわからない。

たとえば今日の天気とか、たとえば美味

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ピンクブラウン【小説 幸せの復讐②】

ピンクブラウン【小説 幸せの復讐②】

旦那のいない家で旦那の存在を感じて生きている。
そう思ったとき、私の中で何かが弾けた。
家庭外別居(単身赴任)をする旦那に合わせて生きることよりも、もっと何か。

エアコンの温度を2℃上げた。

自分の人生を自分で楽しみたいと思った。
まずは体調管理。
リラックスできる寝室。

そうして頭を使うことは、何より気分転換になった。
ふわふわしたブラウンのシーツを用意した。
ところどころピンクを加えたピ

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チョコレートブラウンな犬 【小説 幸せの復讐③】

チョコレートブラウンな犬 【小説 幸せの復讐③】

きっかけはちょっと太ったことだった。

ふだん着ていないスーツを出した時、なぜかズボンがパンパンだった。
自分好みの寝室に作り替え、自分の変化に敏感になっていたのかもしれない。

気持ちで誤魔化してみても、パンパンのズボンはスリムにはならない。
あきらめて普段履き慣れたスーツに変える。

「…マジかー」
年甲斐もなくつぶやいてみる。

何か意識改革が必要だ。
手近なところでウォーキングだろうと思っ

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