はじまりのハニーラテ 【短編小説】扉⑨
隣のとびら⑨
「じゃあ、僕とかどうですか?」
ケーキ片手に、何言ってんだ。
心の中で思う。そんなこと言えるタイプだった?
いや、言ったの自分だし。
なんでもない風な顔を作ってる内心焦ってる、自分で自分に焦ってる。
涼しい顔で、彼女の目の前にケーキを置いてみる。
今の今まで仕事中だった。
いや、今も仕事中。
喫茶店でウェイターをしている。
入ってきた時から、目を引く美人だなと思った。
顔が可愛いとか、スタイルがいいというよりも、目を引く。
ゆれるように、ゆらめくように。
なんてことないシンプルなTシャツに、ジーンズ。それでも、人目を引く。
美人というのはそういうものだし、そういう人はたまにいる。男でも女でも人目を引く人は、人目を引く。
目の前に座る可愛いお客さんに、じっと見つめられる。
あたりまえだ。
ちょっと耐えられなくなってきた。
会話のレパートリーが多いわけでもなく、こういう状態に慣れているわけでもなく…
諦めて去りかけた僕の耳に、間違えなく聞こえた。
「また来るから、コーヒーのこと教えてね」
急いで振り向くと、彼女がニッコリと笑いかけた。
「マジで美人だった。対応が美人!」
友達の圭に訴える。
あきれながらも、笑いを浮かべ圭はこう言った。
「まぁ、慣れてるんだろうね」
浮かれてた気持ちが、ちょっとだけ沈んだ。
「大丈夫だよ、浩介良いやつだから」
表情に出てたのだろう、圭が僕の顔を覗き込みながら、優しくそう言った。
そういうやつなんだ。
数日して、彼女 楓は本当に店にやってきた。
「あ、コーヒーの人」
軽い声に好感を覚える。
「あんまり詳しくないから教えて欲しくて、このお店コーヒー豆売ってるじゃない?
何かオススメないかと思って。私あんまり飲まないから…」
テーブルの上に、注文されたハニーラテを置く。
すっと頭の熱がひいた。
頭の中で望んでない言葉が浮かび上がる。
飲まないコーヒーは、彼氏へのプレゼントですか?
ぐっと踏み止まる。
聞いてどうする。
「好みにもよりますけど、無難なところですと、当店のオリジナルではないかと思います。深みと酸味がバランスよく、お客様にも人気の商品です」
何度となく言ってきた定番の言葉を伝える。
「そっか、じゃあそうしようかな?」
明るく言葉を受け取る楓の表情が、一瞬くもったように見えた。
なんだろう?
伏目がちになった楓の目線の先に、置かれた本のタイトルに目がいった。
今の今まで読んでいたのだろう、ページの間に指をはさんだままでいる。
『眠れない夜に贈る15の魔法』
🔚
sub title 浩介の眠らない魔法
↓前作 綺麗って言われるけど…な、ユメのおはなし
↓2人の出会いの時のお話
↓ナンパされた楓の話
思い込みって、やっぱりあると思ってて、人はその偏見をずっと背負いながら生きてると思います。
誰であってもそういうのはあると思いますが、まぁ何が得するとか話あっても、結局は人生で演じるのは自分自身なわけで。
うまく人と分かり合って、楽しく過ごせるといいよねって思います。
疲れた時は休めばいいのさ。
続き↓