アエナイふたり【短編小説】扉④
となりの扉④
転勤の知らせを受け取った時、
終わったと思った。
どうしても仕事での成果が欲しかった。
だが、2つ年下の優羽との結婚生活はあまりうまくはいってなかった。
2つ同時には選べない。
意地悪な上司だ。
順調に結婚して、仕事をしてる俺がねたましいんだろう。
考えたところで、答えが出るわけではない。
転勤して出世するか、しないか、
そのはてに、離婚するか。
「わかりました」
答えたものの、その後の展開がわからない。
まぁ、なんとかなるだろう。
甘い考えを小脇に抱えて、自宅に持ち帰った。
だいたいみんなそんなもんだろ?って、
自分に言い聞かせた。
妻の優羽の反応はあっさりとしたものだった。
「いいんじゃない?
瑛太の好きなようにしなよ。転勤していいよ、出世でしょ?私も自分の時間が欲しかったから」
何かがひっかかった。
けど、何にも気にならなかった。
春が過ぎ、
夏がきても、
自宅に戻れる気がしなかった。
ローンで買った家残しながら、自分はワンルームで生活する。
せまくはない。
不満もない。
ただしっくり来ない。
ただ生きている何かを感じたかっただけかもしれない。
次の週末に、近くのホームセンターでハムスターを買うことにした。
名前も決めた「いくら」
黄色味がかったその毛色に、そして丸まって寝るその姿に、
他の名前が出てこなかった。
来週末、迎えに来ますから。
そうホームセンターのペットショップで誓いをたてて、ワンルームに戻った。
これから彼女との共同生活がはじまる。
あんまり寒くすると冬眠しちゃうから、気をつけた方がいいですよ。
仕事場の後輩が
ハムスターを飼っているといううわさを聞きつけて話しかけてきた。
「冬眠? 可愛いじゃん」
何気なく反応すると、
猛烈に反論された。
「ダメです。冬眠させちゃ、ダメです。
体力を奪われるんですよ? 私たちが夜寝て起きるのとは訳が違うんです。生死をかけて、自分の命を削る思いで冬眠するんです。起きれる保障はないんです」
あったかくしてあげてください。
春みたいにあったかく。
朝晩が冷えますから、ペットヒーターとか入れてください。絶対に。
なんだかよくわからないうちに、来週ペットヒーターを見に行こうと言う話になっていた。
俺の作った家に
命なんかかけちゃダメだって。
ワンルームの部屋の中、
ごそごそ動き回るいくらを見ながら
ぼんやりと思った。
「クリスマス前に、旅行行こうかって言ってたっけ」
ピンク色のライトアップだよ?
って、うれしそうに笑いながら、優羽が旅行雑誌の写真を見せてくる。
ピンクのクリスマスツリーか。
可愛いのか。
それが家族のぬくもりってやつかな?
ぼんやりと思いながら、
メッセージを送った。
「今週末会える?」
sub title 瑛太のぬくもり
🔚
↑前作 瑛太が飼ってるハムスター
↑前前作 瑛太のパートナーのお話
そらいろのmint からのお話
前前前作ってしようかと思ったけど、
遊びがすぎるのでやめときます。
これで一応、お部屋シリーズは終わりです。
もう少し先まで考えてはあるけど、とりあえずたぶん一区切りにはなるかな?
お部屋ととらえつつ、
意外と心の方のお部屋だと思います。
1人でいても満足なのに、なんか流れで誰かいかなきゃいけないような気がしたり、
大切に思われてるはずなのに、受け止めきれなかったり、
もう見えるもので満足できたり、
それは考え方ひとつだということ。
人それぞれ幸せはあるし、他人の作り上げた幸せを実行しても幸せにはなれなかったり、意外と複雑なんだと思います。
何を幸せと感じるかは、
遺伝子型とか生活の仕方とかいろんなもので作られているので、
コレをしたらハッピーってものでもないそうです。
情報が多いからこそ、
コレに決まってる!ってしたり、
周りのネガティブ、あるいはポジティブな意見にくっついていかないのが、幸せなんだと思います。
とはいえ、誰かいる幸せは大事だと思います。
そんなわけで、まだまだ続ける予定ですが、楽しんでもらえたなら、幸いです。
↓仕事場の後輩の話