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『人生万景』イサオヒロミ

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イサオヒロミの『人生万景』です。 仕事やプライベートで感じたことを書きまとめています。
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2022年7月の記事一覧

『東池袋』人生万景

『東池袋』人生万景

「これあげる」
 20代前半。僕は池袋にある飲食店でアルバイトをしていた。そのお店で主任をしていた社員(僕よりも10個くらい年上男性)から手渡されたのはHMVのポイントカードだった。
「いえ、ここの僕も持ってるので、」
「知ってる。それはそれ。俊政(僕の本名)が映画に出るようになったことで全く映画を観てこなかった俺も映画を観るようになったの。趣味ができたお礼。受け取って」
 一度、

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『さよなら、SR』 〜人生万景〜

『さよなら、SR』 〜人生万景〜

何も知らない芋野郎だった僕は、Kawasakiのバイク専門店でなぜかこのヤマハのSRを注文し、購入しました。22歳くらいだったと思います。二輪の免許を取るために通う学校みたいなところの近くにたまたまそのKawasakiのバイク屋があり、これも縁だと信じ込み、初訪問でそのまま注文しました。そのときの担当者の方から「うちはKawasaki専門だからヤマハのバイクはヤマハで買ったほうが安いだろうしアフタ

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『漆黒の罠』 〜人生万景〜

とんでもなくこわい思いをしました。今まで生きてきた中で1位かもしれません。幽霊とかよりももっとこわいやつです。

今日、ガチャガチャが出てくるところに前の人が取り忘れたかのようにガチャガチャが既に出ていました。説明書みたいなやつが入っていて重さ的に中身が入っているように感じたので、「マジかラッキーじゃんこれ」と蓋を開けてみるとなんと黒いゴギブリが入っていました。古い家に出てきそうな黒よりも黒のゴギ

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『時を超えた告白』 〜人生万景〜

中学一年生。
体育委員として初めての業務は、お昼休みに体育倉庫で生徒にボールの貸し出しをする、でした。受付係です。
お昼休み中に体育倉庫にボールを借りにきた生徒にサッカーボールであったり、バスケットボールだったり、バレーボールだったりと、そういった丸いものを次々と手渡し、お昼休みが終わる頃には次々とそれらを回収する、という業務だったと記憶しています。

お昼休みが終わるまでは密室である体育倉庫の中

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『必然な風』 〜人生万景〜

『必然な風』 〜人生万景〜

3年前。お互いの背景を知らずに毎日のように顔を合わせていた。

「俺はお前のことは心許してるつもりだよ」
ある日の朝、砂利の駐車場でそう言われた。
その時にお互いの背景を初めて話し、知った。

僕の俳優としてのデビュー作は湘南乃風のMVだったこと。
https://youtu.be/UNzxqd2KiXI

ゴキさんはGOKIさんで元湘南乃風だったこと。
https://youtu.be/QIyG

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『出前』 〜人生万景〜

「ごめん、外食べに行く時間あれだから今日は出前にしよう」

 仕事先で出前を注文することに。ここの出前屋は初めての利用だった。

 メニュー表を睨むように見た先輩は「俺は炒飯」と言った。

「普通の炒飯頼むんならこの四十円高いオム炒飯のほうがよくないですか? 炒飯の上に玉子が被さってて色ありますよ」と僕は勧めた。

 到着したオム炒飯。玉子のシートの下にオレンジ色が少し見えた。オム炒飯の中身がまさ

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『無量』 〜人生万景〜

『無量』 〜人生万景〜

東京から広島へ。車で移動している。

京都にある親戚の家に寄った。休憩がてらに泊まらせてもらえることに。

窓を開けると、まとまった水のように風が入り込んできた。

「あれ? 目の前の診療所って、」

「閉まってるやろ? 死んだんや。先月。いきなり。お金死ぬほど稼いだから老後を楽しむ言うてたんやけどな。7月いっぱいで病院閉める言うてたんやけど、それを待たずに死んでもうたんや」

「……こんなこと言

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『忘れられない味と道』 〜人生万景〜

『忘れられない味と道』 〜人生万景〜

「五反田なら、大江戸線から浅草線で移動しますか?」と訊くと、「いや歩き。ここから20分くらいだから」と先輩は答えた。
……20分? と疑問には思ったけど、「まあ話しながらいこうぜ」と数歩先を歩く先輩を追いかける形で僕は六本木ヒルズを出た。

全く車に興味がない、と言っている先輩が、ランボルギーニの横幅について語っていた。

40分くらい歩いたところで「正味な話、あとどれくらいで着きますか?

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『東京タワー』 〜人生万景〜

『東京タワー』 〜人生万景〜

ミュンヘンから古い友人が遊びに来ていた。会うのは19年ぶり。

「のぼる? のぼらんのもありだと思うよ? また来る理由になるし」
入口でそう訊くと、友人はしっかり迷った後に、のぼらない選択肢を取った。

また来るときは誰と来るんだろうか。

もし次回も僕とだったら真ん中のデッキまで登ってまた同じ質問をしようと思う。

『平和公園にて』 〜人生万景〜

『平和公園にて』 〜人生万景〜

帰郷時。

同じ日の同じ時間に、東京在住の先輩がたまたま平和公園にいた。

折角、広島にまで来ているのに。先輩は東京のどこにでもある一風堂に入り、ラーメンを食べた。

なんで広島にまできて一風堂なん?  ともやもやしながら僕は東京のどこにでもあるブックオフに入った。

『ヨドバシカメラ吉祥寺店』人生万景

『ヨドバシカメラ吉祥寺店』人生万景

建物を出ると、先輩と、先輩の子供・Yくんとバッタリ会いました。ゆっくり話がしたいなあ、と思っていたので驚きました。
先輩と僕は挨拶もそこそこに、それぞれ腕時計に目を落としました。僕はそのとき予定がありましたが、明日にズラすこともできるような予定でした。ただ、明日にズラすとバタバタしてしまうので今日の内に処理しておきたい用事でした。日も暮れかけていたので、先輩も早く家に帰りたいような顔をしていました

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『罠』 〜東京万景〜

『罠』 〜東京万景〜

撮影の空き時間に、インドなのかタイなのかそれっぽいショップにふらりと入ってみた。

からんころん。

見るからに個人店。入ってみると、予想したよりもかなり小さい店内だった。

「これ私も10年以上使ってるやつです」

ラクダの上でヨガやったことあります、って言いそうな女性店員が話しかけてきた。

(私も? っていうか話しかけてくるの早すぎん? まだお店入って15秒とかで?)

「私のちょっと触って

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『舞浜にあるホテルにて』 〜人生万景〜

『舞浜にあるホテルにて』 〜人生万景〜

隣の部屋から掃除機の音が聞こえてきた。

今日泊まる誰かの部屋に作りかえているのだろう。

まもなくこの部屋から僕の気配もさっき見た夢も消されることになる。

カーテンを開けると、対岸から現実の世界が手招きしてきているのが見えた。

もう行かないと。