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『罠』 〜東京万景〜

撮影の空き時間に、インドなのかタイなのかそれっぽいショップにふらりと入ってみた。

からんころん。

見るからに個人店。入ってみると、予想したよりもかなり小さい店内だった。

「これ私も10年以上使ってるやつです」

ラクダの上でヨガやったことあります、って言いそうな女性店員が話しかけてきた。

(私も? っていうか話しかけてくるの早すぎん? まだお店入って15秒とかで?)

「私のちょっと触ってみてください」

(え?  触る?  どれを?  ……ああ、これね)

「山の奥に住んでる野生の山羊の革なんで丈夫なんですよ」

(野生じゃない山羊の革もしらんし……)

「こういうのお好きなんですか?」

(いや、あなたに手渡されたので持っとるだけです)

「お兄さん、こういうのも似合いそうですね」

(もうあっちいってほしい)

何かしらは買わないとお店を出られないような空気になってきた。

「決まったら教えてくださいね」

(決まったら?   まじか。待たせてしまっとるんか。入ってまだ1分も経っとらんぞ? こういうのよくないよ。カツアゲと同じ威力のやつよこれ。何か安いのないか?  どれでもいい。安いのだったら。どれでもよくはないけど。一番安いのどれ? まずそっからよ)

別にほしくない物の中から買ってもいい物を一生懸命選ぶことにした。

「10年以上使うとこうやって味が出るんですよこれ。ほら。もう一回触ってみてください。すべすべでしょ?」

「……確かにすべすべですね」

「でしょ?」

「え?……ええ」

「これにしときますか?」

「……これ、にしときますか」

店員さんが10年以上使っているらしい同じ革製品(コインケース?)を買うことで許してもらえることになった。

果たして使うのだろうか。

からんころん。


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