ハベレオ通信

宮崎県椎葉村出身の、公衆衛生をこよなく愛してやまない還暦プラス1です。教科書には掲載されていない公衆衛生の魅力を、歴史とエピソードと写真と教訓で、発信していきたいと思います。

ハベレオ通信

宮崎県椎葉村出身の、公衆衛生をこよなく愛してやまない還暦プラス1です。教科書には掲載されていない公衆衛生の魅力を、歴史とエピソードと写真と教訓で、発信していきたいと思います。

マガジン

  • 公衆衛生虎の巻

    公衆衛生にまつわる歴史やエピソード集です。これまで掲載した記事をまとめています。高木兼寛の言葉「道は古今を貫く」の観点から、公衆衛生の「既にある未来」を知りたい方におすすめです。

  • 宮崎のまことしやかな話

    宮崎にまるわる歴史や文化についてまとめています。

最近の記事

  • 固定された記事

日向市坪谷出身の若山牧水は、日本で一番歌碑の多い歌人である

英語の rest には、睡眠、休息だけではなく「仕事・苦労・心労からの解放」という意味あります。 皆さま、rest していますか? 佐野元春さんの SOMEDAY は、その大切さを教えてくれる名曲です。 詩を読んだり、歌を聴いたりすると、安らぎを覚えます。 日本人は、古来より歌を詠んできました。 歌には天地(あめつち)を動かす力があると考えていました。 言葉は、言霊(ことだま)のことで、言葉には魂が宿ると信じていました。 歌は魂を動かすことがあります。 心を癒やすこと

    • E型肝炎の原因は、発展途上国では「水」、日本では「鹿の生肉」である

      私の生まれた椎葉村は、昔も今も狩猟が盛んな土地です。 民俗学の柳田国男は、内閣法制局の官僚時代に、九州地方を視察しています。 宮崎県知事などから平家落人伝説のある椎葉村の話を聞いて興味を持ち、視察することになりました。 椎葉村滞在中は、中瀬村長が対応しました。 村長から聞いたイノシシ狩りなどの話や資料をまとめて、「後狩詞記」という本を自費出版しました。 これが日本民俗学の始まりとされており、椎葉村小崎にある中瀬村長の実家の庭に、日本民俗学発祥の地という碑が建っています。

      • ヒポクラテスは、プラタナスの木陰で、学生たちに医学を教えた

        ヒポクラテスが書いた「空気、水、場所について」という本があります。 実は、地域医療を考えるにあって、極めて重要な内容が書かれている文献です。 ヒポクラテスは、風土病(endemic)と流行病(epidemic)を区別しました。 地方に常在する「風土病」と、ある時期に激しく発生する「流行病」という言葉を使い分けています。 例えば、宮崎県に多い重症熱性血小板減少症(SFTS)は風土病、冬に全国に爆発的に発生するインフルエンザは流行病です。 また、その地方で流行する病気は、気候

        • 亜硝酸塩を摂取した赤ちゃんは、「青ちゃん」に変化する

          水道法には、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素の基準がもうけられています。 これらは、家畜の糞尿、腐敗した動植物、肥料、タンパク質分解物が、地中の微生物によって分解されて酸素と水になるときに生じます。 硝酸態窒素や亜硝酸態窒素の量が多い水は、家畜の糞尿などの汚染物の残渣がたくさん含まれている、という指標になります。 日本では、高い量が検出された例は知られていません。 米国には50~100mgの硝酸態窒素を含有する井戸水を飲んで、乳児が死亡した例があります。 乳児の胃液は、酸性

        • 固定された記事

        日向市坪谷出身の若山牧水は、日本で一番歌碑の多い歌人である

        マガジン

        • 公衆衛生虎の巻
          97本
        • 宮崎のまことしやかな話
          14本

        記事

          手塚治虫さんと石ノ森章太郎さんが十分な休養をとっていたら、あと二〇年間新作が出た

          第一次世界大戦では、飛行機や戦車や毒ガスなどの新兵器が登場し、人類史上空前の壮絶な戦いを経験しました。 欧州の交戦国では、一年に1~2週間の休暇を、将校や兵士全員に与える必要を認めて、制度化しました。 導入した理由は、多数の戦争神経症の患者が発生したからです。 戦争神経症の症状は、不眠やうつ、幻聴などで、全身のけいれんや歩行が困難になるなど激しい症状が現れる人もいました。 戦争神経症への対策が、軍陣医学の課題となって、休暇制度が設けられたのです。 欧州における第一次世界

          手塚治虫さんと石ノ森章太郎さんが十分な休養をとっていたら、あと二〇年間新作が出た

          安西先生は、あきらめたらそこで試合終了ですよと言った

          1943年末に、連合国軍は、イタリアに侵攻しました。 イタリア南部のアドリア海に面したバーリ港は、イギリス軍が制圧し、輸送船がひしめいていました。 12月2日、ドイツ軍の爆撃機105機が、そのバーリ港を攻撃しました。 およそ20分間の攻撃で、多くのイギリス軍の輸送船が爆破されました。 冬の冷たい海に投げ出された多くの英国軍の兵士は、救護部隊によって陸地に引き上げられました。 あたりがニンニクのような臭いがしました。 眼が痛い、涙が止まらない、まぶたがけいれんする、見えな

          安西先生は、あきらめたらそこで試合終了ですよと言った

          酸素は、「万能の蘇生薬」である

          英国の災害ルールでは「酸素は万能の蘇生薬である」としています。 初めて見たときに、うなってしまいました。 酸素を「薬」と認識したことはありません。 おそらく多くの医療関係者は、薬とは認識していないのではないでしょうか。 思い起こせば、新型コロナウイルス感染症の治療において、最初から最後まで一番活躍したのは、酸素です。 武漢から出現して、またたく間に世界に広まった新型コロナウイルス感染症は、感染者の肺に、両側性のスリガラス状の肺炎を起こして、呼吸困難を生じさせました。 多

          酸素は、「万能の蘇生薬」である

          公衆衛生のサイエンスとアートを磨くことは、歴史を知ることが一番の近道である

          ドイツの鉄血宰相ビスマルクは、「愚者は経験から学ぶが、余は歴史から学ぶ」と言いました。 相当な「上から目線の言葉」ですが、社会保障の世界では「ビスマルクは社会保障三部作を創設した政治家」だとされ、極めて評価が高いので、許してもいいかも。 ビスマルクは、老齢年金、医療保険、労災保険、を創設しています。 医療保険の保険料を事業主と本人が折半することや、労災保険の保険料は事業主が全額負担するという原則は、現在も続いています。 日本の内務省は、ドイツの医療保険を学んで、日本に導入

          公衆衛生のサイエンスとアートを磨くことは、歴史を知ることが一番の近道である

          我が国の歴史上の人物で、確実に糖尿病だと言える最古の人は、藤原道長である

          11月14日は世界糖尿病デーです。 インスリンを世界で初めて抽出したカナダの医師バンディングの誕生日を記念して、WHOと国際糖尿病連合が決めました。 シンボルマークは「ブルー・サークル」です。 ピンクリボンのようにまだなじみがないので、知らない人も多いと思います。 この日は、世界中のさまざまな施設やモニュメントが、ブルーでライトアップされます。 何年か前に、東京でJR山手線の電車に乗ろうとしたら、電車のドアにブルー・サークルのポスターが貼られていました。 山梨県に出向

          我が国の歴史上の人物で、確実に糖尿病だと言える最古の人は、藤原道長である

          ナポレオン軍の軍医団長ラリー男爵が、救急車とトリアージを考案した

          ナポレオンは国民皆兵をしいて、フランス国軍を整備しました。 全国から集められた兵士に種痘を行います。 ナポレオンは、医学に大変興味がありました。 種痘法を確立した医師ジェンナーはイギリス人で、イギリスはフランスにとっては敵国ですが、ナポレオンはジェンナーに勲章を贈っています。  ナポレオンは、軍医団を組織しました。 それまでは戦争が起こると、町医者を招集して軍医として従軍させ、戦争が終わると解雇していました。 それをやめて、医師を軍医として採用し軍の内部で昇進させるシス

          ナポレオン軍の軍医団長ラリー男爵が、救急車とトリアージを考案した

          風疹の日英同盟は、発展的に解消された

          アメリカの俳優トム・ハンクスが主演の映画「アポロ13」は、産業医学や公衆衛生も描かれており、大変勉強になります。 宇宙飛行士に選ばれたチームの一人が、風疹に罹ったかもしれないと疑われます。 彼は、ワクチン接種をしていませんでした。 もし、感染していたら宇宙にいるときに発症することから、月行きのクルーから外されてしまいます。 しかし、風疹は発症しませんでした。 このように予防接種の有無によって人生が変わることがあります。 妊婦が風疹に罹ると先天性異常児が生まれることがあ

          風疹の日英同盟は、発展的に解消された

          FDA審査官のケルシーは、サリドマイドからアメリカの赤ん坊を救った

          胎児期にウイルスなどの病原体や化学物質に暴露すると、胎児に様々な健康障害が起こることがあります。 先天性梅毒、先天性風疹症候群、胎児性水俣病、が有名です。 近年は、「コカインベイビー」という麻薬による健康障害も発生しています。 歴史上で最も衝撃的な事例は、「サリドマイド事件」でしょう。 サリドマイドは、一九五〇年代に西ドイツの製薬会社によって製品化された薬です。 妊婦のつわりを緩和するために使われました。 サリドマイドには催奇形性がありましたが、このことは当時知られてい

          FDA審査官のケルシーは、サリドマイドからアメリカの赤ん坊を救った

          猫の脳症が報告された英国は、クロイツフェルト・ヤコブ病の監視調査を開始した

          一九八六年に英国内の牛に、牛海綿状脳症(狂牛病・BSE)が発生しました。 調査をしたところ、羊や牛などの反芻動物由来の肉骨粉を、餌に混ぜていることが原因であると推定されました。 肉骨粉にプリオンという感染性の異常タンパク質があり、これが脳の細胞に異常を起こしたのです。 このため、一九八八年に、英国では反芻動物由来の肉骨粉を、牛などの反芻動物に食べさせることを禁止しました。 狂牛病の発生の多かった一九九〇年の英国で、今度は飼い猫の海綿状脳症が確認されました。 ペットフードを

          猫の脳症が報告された英国は、クロイツフェルト・ヤコブ病の監視調査を開始した

          貝原益軒の養生訓は、健康ビジネス書の元祖である

          日本では、福岡藩の藩医・儒学者だった貝原益軒の養生訓が有名です。 岩波文庫で出ております。 1713年に、益軒が八二歳のときに書いた本です。 現在でも長生きしたと言えますが、江戸時代では超長生きでしょう。 そういう高齢な人が書いた本なら、エビデンス的にも信頼できそうです。 益軒は、子どもの学習の助けとなり、庶民の生活に役立つ「民生日用」の書を、平易な文章で表すことが自分の務めだと言っています。 今の時代でいえば、健康関係のビジネス書の出版という感じでしょうか。 明治の初

          貝原益軒の養生訓は、健康ビジネス書の元祖である

          WHOの健康の定義は、第二次世界大戦のレジスタンス運動家がつくった

          1947年4月7日に、国際保健機関(WHO)が誕生しました。 毎年4月7日はWHO誕生の日となっています。 WHO憲章にある「健康の定義」は有名です。 健康は身体的にも精神的にも社会的にも完全で良好な状態をいい、単に病気がないとか虚弱でないということではない。 WHOの第三代の事務局長マーラーによると、この定義は第二次世界大戦中にレジスタンス運動を行い、後にWHO職員となったひとりの人物によってつくられたのだそうです。 その人物は、レジスタンスをしている間に、これまで

          WHOの健康の定義は、第二次世界大戦のレジスタンス運動家がつくった

          国民皆保険を夢見て厚生省を創設した局長は、割腹自殺を遂げている

          陸軍の医務局長に小泉親彦という軍医中将がいました。 福井県出身で、東大医学部を卒業後、陸軍の軍医となりました。 この人こそ、厚生省の産みの親です。   東京都世田谷区にある陸上自衛隊の三宿駐屯地に「彰古館」という医学博物館があります。 ここには、明治時代から終戦までの陸軍衛生の貴重な資料や、医療機器などが保存、展示されています。 日本で初めて輸入されたドイツのシーメンス社のX線装置や、歴代の軍医総監・医務局長の肖像画が飾られています。 森林太郎(鴎外)の肖像画もあります。

          国民皆保険を夢見て厚生省を創設した局長は、割腹自殺を遂げている