亜硝酸塩を摂取した赤ちゃんは、「青ちゃん」に変化する
水道法には、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素の基準がもうけられています。
これらは、家畜の糞尿、腐敗した動植物、肥料、タンパク質分解物が、地中の微生物によって分解されて酸素と水になるときに生じます。
硝酸態窒素や亜硝酸態窒素の量が多い水は、家畜の糞尿などの汚染物の残渣がたくさん含まれている、という指標になります。
日本では、高い量が検出された例は知られていません。
米国には50~100mgの硝酸態窒素を含有する井戸水を飲んで、乳児が死亡した例があります。
乳児の胃液は、酸性が弱くて、消化管で硝酸塩が亜硝酸塩へと変化しやすいといわれています。
吸収された亜硝酸塩は、血液のヘモグロビンをメトヘモグロビンへと酸化させます。
メトヘモグロビンは、通常のヘモグロビンと違って、酸素運搬能力が劣ります。
このためメトヘモグロビンが増えるメトヘモグロビン血症となった場合には、全身の臓器に酸素が供給されなくなります。
全身が酸素不足となった乳児は、顔をはじめ全身が青くなることから「ブルーベイビー」と呼ばれました。
赤ちゃんではなく「青ちゃん」です。
私は、このブルーベイビーが日本に起こるわけがない!と思っておりました。
ところが、そのまさかが起こったのです。
あろうことか、2021年10月19日、群馬大学病院の新生児病棟で起こりました。
19日の午前中に、新生児病棟の水道の蛇口からぬるま湯が出ていることが報告されました。
17時頃に、新生児病棟で、乳児二名の顔が蒼白くなっていることに、看護師が気がつきました。
当時17人の乳児が入院しており、調べた結果、10人がメトヘモグロビン血症であると判明しました。
この10人は病棟内で調乳した人工乳を飲んでいました。他の7人は母乳です。
人工乳を調乳した際に使用した水道水が疑われました。
群馬大学では、大学内の地下水を浄水処理して飲料水として使っていました。
この消毒された飲料水が疑われました。
前橋市保健所から、原因の特定と改善、水質基準を満たすことが確認されるまで給水の停止を指示されました。
大学では20日、21日を外来を原則休止させ、病院内の水道水の水質検査を実施します。
新生児病棟の水道水から高濃度の亜硝酸態窒素が検出されました。
それ以外の病棟からは検出されませんでした。
新生児病棟の水道管を調べたところ以下が判明しました。
空調用配管と水道管がつながれており、つなぎ目に自動で開閉する弁で仕切られていました。
ところがその弁が経年劣化して、常に開いている状態となっていました。
空調用配管には、亜硝酸塩を含むさび止め剤の入った空調用温水が流れていました。
この空調用温水が水道管に混入したことが原因だと判明しました。
建築基準法違反でした。
建築基準法では、飲料水の配管設備とその他の配管設備とは直接連結させないことになっています
空調水が水道管に混入しないように空調用配管と水道管を切り離しました。
新生児病棟の水道管に溜まっていた亜硝酸塩を含む汚染水を除去するための排水を行って、水質基準を満たすことを確認しました。
12月16日の午後から、新生児病棟の水道が使えるようになりました。
幸いなことに発見が早かったので、死亡事例はなく、赤ちゃんは順調に回復しました。
最初に気がついた看護師はさすがです。
メトヘモグロビン血症の症状で、ミルクを作る水が原因ではないかと直ちに疑った病棟スタッフもグッドジョブ!
ボーッとしていて気がつかなかったら、大学を揺るがす大問題となっていたでしょう。
建築基準法違反の水道管工事を、新生児病棟にしていたとは驚きです。
世の中、何が起こるか判りません。