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FDA審査官のケルシーは、サリドマイドからアメリカの赤ん坊を救った

胎児期にウイルスなどの病原体や化学物質に暴露すると、胎児に様々な健康障害が起こることがあります。

先天性梅毒、先天性風疹症候群、胎児性水俣病、が有名です。
近年は、「コカインベイビー」という麻薬による健康障害も発生しています。

歴史上で最も衝撃的な事例は、「サリドマイド事件」でしょう。
サリドマイドは、一九五〇年代に西ドイツの製薬会社によって製品化された薬です。
妊婦のつわりを緩和するために使われました。

サリドマイドには催奇形性がありましたが、このことは当時知られていませんでした。

最も特徴的な奇形は、アザラシ肢症です。
四肢が萎縮して、胴体から直接手足が生える奇形です。

世界中で約一万人の子どもが母親の服用したサリドマイドにより、このような障害をもって生まれてきたと推定されています。
数千人が、生まれる前に母親の胎内で死亡したとみられています。

最初に薬が販売された西ドイツの被害は、特に大きいものでした。
日本を含めて、世界の四二カ国に被害者が出ました。

映画「典子は、今」が参考になります。
私は、医学部に入る前の予備校時代に北九州市の小倉の映画館で観ました。

アメリカでは、被害が出ませんでした。
その理由は、サリドマイドが医薬品として承認されなかったからです。

FDA(連邦食品医薬品庁)の審査官のカナダ出身の薬理学者ケルシーは、申請書類の内容が不十分として製薬会社の安全性データを信用しませんでした。

慎重な態度をとったことから、薬事審査の手続きが遅れたのです。
その間に、サリドマイドがアザラシ肢症を起こすことが判って、世界の市場から回収されました。

ケルシー審査官は、アメリカの英雄となりました。
一九六二年に、ケネディ大統領から勲章を授与されています。

二〇一五年に101歳で亡くなりました。
ニューヨークタイムズは、「アメリカの赤ん坊を救った女性」という見出しで報道しました。

サリドマイド事件が契機となり、医薬品の申請時に、FDAが安全性と有効性の証明を求める権限が与えられました。
現在の医薬品開発で使われる、第一相、第二相、第三相の治験システムが定められました。

日本をはじめ多くの国が規制機関を持つようになります。
自前の規制機関がない国は、アメリカのFDAの認可を受けている新薬の販売をほとんどの国が受け入れています。
一方、日本の規制機関は、PMDAです。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が、我が国で確認されてほぼ11年が経過し、約900人の感染の届出がありました。
そのうち、約100人は宮崎県で発生しています。
死亡率は25%で、60歳以上の高齢者が亡くなっています。

治療法は、これまては対症療法しかありませんでした。
富士フイルムが開発した抗ウイルス薬アビガンを、国立感染症研究所の研究者や宮崎県立病院をはじめとする医師が症例を集めて治験を実施し、昨年8月末にPMDAに申請を行いました。

PMDAで、新薬の安全性と有効性が審査され、今年承認されました。

STFSウイルスによる疾患は、日本以外には、中国、韓国、台湾、タイ、ベトナムなどでも報告されています。

日本発の新薬の登場により、治療が発展することを期待しています。
ただし、催奇形性のリスクがあることから、妊娠可能性のある女性などへの投与は、制限されています。


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