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猫の脳症が報告された英国は、クロイツフェルト・ヤコブ病の監視調査を開始した

一九八六年に英国内の牛に、牛海綿状脳症(狂牛病・BSE)が発生しました。
調査をしたところ、羊や牛などの反芻動物由来の肉骨粉を、餌に混ぜていることが原因であると推定されました。

肉骨粉にプリオンという感染性の異常タンパク質があり、これが脳の細胞に異常を起こしたのです。
このため、一九八八年に、英国では反芻動物由来の肉骨粉を、牛などの反芻動物に食べさせることを禁止しました。

狂牛病の発生の多かった一九九〇年の英国で、今度は飼い猫の海綿状脳症が確認されました。
ペットフードを介した感染であると推定されました。

牛とは異なる種に発生したことは、人に生じる可能性があることが示唆されました。
このため、英国の公衆衛生当局では、人の海綿状脳症であるクロイツフェルト・ヤコブ病の監視調査を開始します。

その結果、一九九六年に、臨床症状、病理所見、発症年齢が、従来型のクロイツフェルト・ヤコブ病と異なる「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病」として報告されました。
従来型よりも遙かに若く四〇歳以下で発症し、患者は、牛の脳や脊髄などプリオンが多く含まれる部位を食べていたのです。

一方、動物では、飼い猫の他に、動物園のライオン、トラ、チーターなどのネコ科の動物に多く発生しました。

それにしても、ネコに発生したから、ヒトにも発生する可能性があると予測して、医療機関での監視調査を実施する英国の公衆衛生の底力を感じざるを得ません。
まさに「ワンヘルス」の考え方です。

ワンヘルスは、人間、動物、環境がそれぞれ密接につながっていると言う考え方で、医学や獣医学の専門家は、他の科学、健康、環境分野の専門家たちと同様に、単独で活動するのではなく、コミュニケーションをとりながら、協力する必要があります

水俣病も最初は、漁民の家で飼っているネコに症状が出ました。
我が国では、ネコに異変が出れば、次はヒトに来るという想像ができませんでした。

ワンヘルス的に、人に身近なネコの健康状況を観察することは、重要です。

宮崎県内で発生したSFTSの患者さんには、ネコを飼っていた方がおられます。
発症する前に、ネコの体調が悪くなって亡くなっています。

マダニに刺されて感染したのではなく、ネコがSFTSに感染し、ネコを介して感染したのではないかと推定されます。
ネコに異変があれば、次はヒトに来るかもしれません。

狂牛病をめぐる一連の公衆衛生上の対策は、ワンヘルスの一つのモデルとして勉強になります。
対策により、狂牛病の世界での発生件数は、一九九二年に38,316頭だったものが、二〇二〇年には3頭まで激減しました。

ワンヘルスは、「犬の健康」ではありません。
ニャンヘルスも、モーヘルスも、ケッコウヘルスもありません

ワンヘルスはひとつです。

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