風疹の日英同盟は、発展的に解消された
アメリカの俳優トム・ハンクスが主演の映画「アポロ13」は、産業医学や公衆衛生も描かれており、大変勉強になります。
宇宙飛行士に選ばれたチームの一人が、風疹に罹ったかもしれないと疑われます。
彼は、ワクチン接種をしていませんでした。
もし、感染していたら宇宙にいるときに発症することから、月行きのクルーから外されてしまいます。
しかし、風疹は発症しませんでした。
このように予防接種の有無によって人生が変わることがあります。
妊婦が風疹に罹ると先天性異常児が生まれることがあると報告したのは、オーストラリアの眼科医グレッグです。
私は産婦人科の医師だと思っておりましたが、そうではありませんでした。
眼科医のグレッグは、シドニーにおいて1941年の前半に先天性白内障が多いことに気がつきました。
白内障は両側性で、出生時の瞳孔は完全に白濁していました。
新生児の大部分は小さく、栄養状態が不良でした。
これまで報告されている白内障とは異なるものでした。
患児には先天性の心疾患を伴うものが多いこともわかりました。
グレッグは、広範囲に激しい流行を見せた1940年の風疹が問題ではないかと疑います。
風疹は胎盤を通過することを文献から確かめました。
グレッグの論文を見た世界の医師たちは、他の疫学的な調査を行い、妊娠初期に風疹に罹患すると先天性風疹症候群の子どもが生まれることを明らかにしました。
白内障と難聴・心疾患が三大症状です。
米国では1964年に2万人もの先天性風疹症候群の子どもが生まれて、大きな社会問題となりました。
半年後、今度は、米軍が占領している沖縄で風疹が流行しています。
沖縄では、1965年に408人の先天性風疹症候群の子どもが生まれました。
ベトナム戦争に関連して大かがりな米国からの部隊の移動が背景にあったと考えられています。
沖縄で生まれた先天性風疹症候群の子どもが中学生となった1978年に、専門の聾学校中等部が開校します。
以後の六年間、高校を卒業するまで聾学校となりました。
名前は北城聾学校で、野球部が設けられます。
この野球部が甲子園を目指す物語を描いた山本おさむさんの漫画「遙かなる甲子園」があります。
映画にもなりました。
風疹の予防接種は、全幼児に接種する米国方式と、女子中学生に接種する英国方式がありました。
日本は、最初は英国方式を採用していました。
我々世代では、中学生のときに女子だけ予防接種があり、不思議な気がしていました。
検証してみると、米国方式は、患者も減少し先天性風疹症候群もゼロに近い発症となりました。
一方、英国・日本方式は、患者数が減らず先天性風疹症候群は持続的に発生しました。
そのため、風疹の日英同盟は発展的に解消され、現在は米国方式に変更されています。