「泣いてるの?」 「泣いてない。さっきまでは泣いてたけど」 そう言って少女は、彼の後頭部に手を当てる。 「血が出てる。痛くないの?」 「痛くない」 少女はその頭を抱き抱える。 一人で頑張っている君の頭を撫でたかった。抱きしめたかった。 思いが、最後、彼に届きますように。
「がんばろう」と、声をかけられるのも、励まされるのも、自分を気にかけてくれているようで、嬉しい。 でも、自分、今まで結構がんばってきたと思うんだよね。 いつまで、がんばればいいんだろう? それよりは、この頑張りを認めてくれない? 結局、どこまで行っても、自分は一人。
同窓会で20年ぶりにアメリカ国籍の親友に出会った。 昔と変わらない彼と僕はすぐに笑顔を交わし、時間を埋めた。 その時、ドンと花火が上がって綺麗だった。 でも、彼は机の下に縮こまり震えていた。 彼は軍人だった。 平和が当たり前の僕とそうじゃない彼とでは見てる世界が変わっていた。
タバコの煙に自分の魂を少しだけ乗せ、今日、何処かで登る命にそっと寄り添って欲しいと願う。 白煙は濃度を失うと空気に溶け込み、知らない誰かの見えない実態と僕の一片が何処かで混ざり絡まり消えている。 最後は1人。絶対1人。 自然の摂理に反抗した僕の思想と行動。 僕が禁煙できない理由。
君は白球を追いかけた。 「野球じゃなくて、サッカーなんだけど」 「ボールは白い面が多いし、遠くから見たら白球でしょ?」 延長の末、2対1で試合に勝利した。 「シュートは1回も打ってないけど」 「センターバック!俺、守り!」 「良かったね」 「明日も早起き、弁当よろしく!」
夢を叶えバリスタになった彼。 色んなブレンドでコーヒーを淹れてくれ、美味しいだろ?っとコーヒーを私に何杯も飲ませてくれた。 コーヒーが好きになった。 でも、彼は話をしながらコクリコクリと眠そうにしている。 カフェインで目が覚めた私はもっと話がしたいのにっと少し拗ねた同棲の初夜。
心がスッキリしない時は、空を眺める事にしてる。 「今日は、どんよりとした曇り空だけど、意味ある?」 「……少なくとも、広いなとは思う」 「確かに?」 「だから、こんな小さな事で悩んでても仕方ないなって」 「自分を無理矢理納得させてるだけじゃ」 「ほら、あそこだけ青空」
『警察車両』 刑事ドラマを観ていると、 大概パトカーは警察署の前にたくさん停めてある だが、近隣の警察署を見ても、 そこまでパトカーはない でも、パトカーは警察署に飲まれていく 地下駐車場でもあるんだろうか それだと緊急出動とかに支障はないのかな? パトカーの駐車場事情
悪夢を喰らう海月がいるらしい。 自分が死ぬ、殺される夢で飛び起きている身としては、ぜひ会いたい存在だ。 海月は肉食だけれど、悪夢は肉のように、噛みごたえがあって、美味しいのだろうか? 半透明な体の中を、黒い悪夢が流れて、咀嚼されていく。 振り向いたら、海月に囲まれてた。
僕の住む街は随分都会になった。 四方八方から囲む真夜中のビル群。 カゴに囲われた僕は胃の中の蛙。 そこは僕から大海を忘れさせ、いつの間にか空の青さも暗くなり、僕が一つ秘めていた星は、ビルから放たれる人工光へと弱々しく形を変えた。 そんな僕はいつしか蝋の羽にすら憧れを持っていた。