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君何処にか去る 第二章(1)
第二章 瞋恚
一
俊雄は、万化無明が二つのコップに酒を注ぐのを酔眼で見た。
(一升瓶がとうとう空になった)
俊雄は、無明の四分の一ほどしか呑んでいない。にもかかわらず、その酔い方は無明の三倍、否、それ以上である。
「わたしは酔った。おたくは強いな」
俊雄は立て続けに大きな欠伸をした。
「眠くなったか。ここで一眠りしてもらってかまわぬが、おたくの用事はどうする。あとにするか」
無明は
【エッセー】回想暫し 15 輪扁(りんぺん)の物語
『荘子』第二冊天道篇第十三(金谷治訳注 岩波文庫)に出てくる話である。ある日のこと、堂の下で輪扁が椎と鑿を使い、堂の上では斉の桓公が書を読んでいた。前者は車輪作りの名人である。後者は中国春秋時代の覇者として知られ、さまざまな奇談の持ち主であるが、とりわけ死してのち、本人の知らぬところで巻き込まれた悲惨な事件には背筋が凍る。さて、輪扁が道具を置いて堂にのぼり、桓公に語りかけた。
「おたずねしますが、