【エッセー】回想暫し9 音を文章で表わす
絵画を文章で描くことはよくあるが、いくら気張っても、当該絵画を一見することがあれば事足りるゆえ、虚しい努力をしているのかも知れない。しかし、ある部屋を全体的に描写するにおいて、正面の壁に一幅の絵画が掛かっていたならば、どんな絵なのかに触れないわけにはゆくまい。このとき、書き手にさほどの絵心がなくても、何とかなるものである。かりに肖像画とすれば、優雅な若い女性がいくつぐらいで、どんな容貌の人なのかを伝え得れば、一応の責めを果たせるからである。
ところが、音楽を文章で描写する