【エッセー】回想暫し 15 輪扁(りんぺん)の物語
『荘子』第二冊天道篇第十三(金谷治訳注 岩波文庫)に出てくる話である。ある日のこと、堂の下で輪扁が椎と鑿を使い、堂の上では斉の桓公が書を読んでいた。前者は車輪作りの名人である。後者は中国春秋時代の覇者として知られ、さまざまな奇談の持ち主であるが、とりわけ死してのち、本人の知らぬところで巻き込まれた悲惨な事件には背筋が凍る。さて、輪扁が道具を置いて堂にのぼり、桓公に語りかけた。
「おたずねしますが、殿さまのお読みなのは、どんなことばですか。」
「聖人のことばだよ。」
「聖人は生