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2024年3月の記事一覧
ハードボイルド書店員日記【180】
「国に何かしてもらおうとは思わないよ」
書店以外にも苦しい業界はあるからねえ。メンターは同意を求めるように視線を合わせ、口元から金歯を覗かせた。
11坪の町の本屋。かつて指導してくれた人がひとりで支えている。いまでも店長としか呼べない。心の中では永遠にメンターだ。
「SNSの活用とカフェの併設、読書イベントっていうのが経済産業省の掲げる解決策として最初に来ることに疑問を感じませんか?」
「仕
ハードボイルド書店員日記【179】
「使えますか?」
平日も賑わう春休みの午後。鼻の奥と眼球がムズムズする。カウンターを出て文庫エリアの前を通り過ぎる際、中学生ぐらいの小柄な男性に声を掛けられた。赤いリュックを背負っている。自治体から配布されたであろう「図書カードNEXT ネットギフト」の大きな紙を差し出された。
「ご利用いただけます」
「この部分だけでも?」
四隅に印刷されたQRコードを指で差す。
「はい。ただレジの機械がなか
ハードボイルド書店員日記【178】
「オカダの本、ある?」
静かな平日の午前中。レジにふたりは要らない。抜けて品出しを続ける。隙間時間を見つけてやらねば終わらない。明日は明日の荷物が来るのだ。昼休みを削り、店長を困惑させるのは気が引ける。そこまでする義理もない。
新刊と売れた分の補充だけならどうにかなる。問題はそれ以外だ。本部が注文し、大人の事情でしばらく返せぬ謎の17号ダンボール8箱。仕入れ室に置き場所はなく、棚下のストックも
ハードボイルド書店員日記【177】
「俺もひとつ訊いていいすか?」
春の襟足が目立ってきた週末の昼。外国人に「イングリッシュブック?」と訊かれ「ノー」と返す。渋い顔をされた。気持ちはわかる。少し前に店長へ提言した。答えは「これ以上荷物を増やしても人員が」だった。私がやると伝えたが、仕入れと返品も大変だしと返された。
先日訪れた某観光地のお店は、村上春樹の洋書フェアを開催していた。ワンフロアで同じくらいの広さだ。いろいろ面倒なのは
ハードボイルド書店員日記【176】
「ピーターラビットの500円を5枚、1000円を3枚。1枚ずつ包装ね」
図書カードがやけに売れる月末の昼。今度はサングラスをかけた常連の老紳士だ。レジを打とうとしたら「あと1500円を7枚」と言われた。
「1500円のものはございませんが」
「知ってる。だから1000円と500円を1枚ずつで7組」
ならば「1000円を10枚、500円を12枚」と伝えてくれる方が助かる。組み合わせは包む段階で教え