2024年1月の記事一覧
ハードボイルド書店員日記【171】
若い人の本離れ。
嘘だ。いまも新潮文庫の太宰治「人間失格」と「ヴィヨンの妻」が売れている。どちらも青空文庫で、つまり無料で読める。にもかかわらず買ってくれたのだ。いいことあるよ。頑張って。頑張らなくてもいいけど。
今度は女性。同じく新潮文庫の三島由紀夫「ラディゲの死」だ。短編集。ラディゲは混合物ゼロの天才である。光文社古典新訳文庫の「肉体の悪魔」を勧めたい。あれを16歳から18歳の時に書いたな
ハードボイルド書店員日記【170】
文庫のミステリィフェアが始まった。
国内外の約20点。基本的には担当のセレクションだが、他の人の案も活かされている。選んだ人の作ったPOPが付されているのもポイントだ。
「ちょっといい?」巡回でフェア台の横を通った際、中年の男性に声を掛けられた。「いらっしゃいませ」「これはおかしいよ」右手人差し指の先を追う。新潮文庫「カラマーゾフの兄弟」だ。全3巻でいずれも600ページ超。誰の選書かは述べるま
ハードボイルド書店員日記【169】
「そんなに厳しいの?」
折り終えたカバーをカウンターの下へ仕舞い、メンターが微笑む。四六判のハードカバー用だ。芥川賞と直木賞が決まると、減る速度がシャア専用に変わる。発表は1月17日の水曜だ。
11坪の町の本屋。かつて指導してくれた人がひとりで支えている。いまでも店長としか呼べない。心の中では永遠にメンターだ。
「ですね。またひとり辞めるし」「ここもいつまで続けられるかわからんけど」「やっぱ
ハードボイルド書店員日記【168】
「今年もよろしくね」
「いらっしゃいませ。よろしくお願いします」
「元日からびっくりしたわね」
「防災関連の本を注文しなきゃな、と同僚と話していたところです。心苦しい部分もありますが」
「あら、どうして?」「商売にしていいのかと」
「不安を感じたお客さんが本を読んで学ぼうと思って買えなかったら、さらに不安が増すんじゃない?」「……たしかに」
「ねえ、大きな地震が起きた時に政府や自治体のトップが取っ