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掌編小説、詩など

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2021年11月の記事一覧

ハードボイルド書店員日記【64】

ハードボイルド書店員日記【64】

明日からテナントのポイントアップキャンペーンが始まる。

おかげでここ数日間は店内が静かだ。レジ後方の収納棚は大小の客注品で溢れている。こういった施策をおこなった場合と見合わせた場合でどれほどの差が生じるのだろう。トータルで均したら、期間中忙しいだけでさしたる効果もない気がする。毎年やっているから、という理由で漫然と続けているのが実態かもしれない。

詮無きことを考えつつ案山子と化す昼下がり。横か

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ハードボイルド書店員日記㉖・改

ハードボイルド書店員日記㉖・改

※ 2021年2月28日に投稿した「ハードボイルド書店員日記㉖」を「#創作大賞2022」に応募するため、一部手直しして再投稿します。

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またこの季節が来た。

「いい人」だと認めて欲しいがために「いい人」ぶらない他者を叩く。そういう連中が沸いてくる。8.15と3.11の名物だ。有名人が自殺した直後のSNSと似ている。誰もが本当

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ハードボイルド書店員日記【63】

ハードボイルド書店員日記【63】

「ねえ、ちょっといい?」

朝に入荷したビジネス書の補充分を出し終えた。残りの棚時間でコミックのシュリンクを、と考えた矢先、女性のパートさんから声を掛けられた。右手に固定電話の子機を、左手にソフトカバーの本を持って近づいてくる。表紙は見えない。

私の少し前に入社した人だ。おそらくだいぶ年上だが確かめてはいない。最初は私のことを自分と同じ業界未経験だと考えていた節がある。半年ほど前「○○さん、もっ

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ハードボイルド書店員日記【62】

ハードボイルド書店員日記【62】

「先輩おはようございます! 質問してもいいですか?」

休日の昼下がり。ぼんやりと職場の棚を眺めていると声を掛けられた。某大型書店を辞めて先月入社したばかりの契約社員だ。ここでは新人なのでまだ実習生である。当面はビジネス書担当、つまり私の補佐ということになった。だから今日は代わりに品出しをしてくれている。年齢は少し下。茶髪でフレームの黄色い眼鏡をかけている。「たまにケント・デリカットって言われます

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