凡筆堂

昭和中盤生まれの男です。グラフィックデザインとコピーライティングを生業としてきましたが…

凡筆堂

昭和中盤生まれの男です。グラフィックデザインとコピーライティングを生業としてきましたが、現役をほぼ引退。今後は明るい調子のコラムやエッセイをはじめ、軽い読み物などを発表して行きます。雑文をひとつ。「ナメクジに塩をかけると死んでしまう。やっぱり塩分の摂りすぎはよくないんだな」。

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〔ナンセンス劇場〕陥落してやる

●某月某日  映画を観た帰り、一人の男とすれ違った。あたしもその男も、お互いを一瞥しただけで通りすぎたけど、すれ違いざま、あたしはわずかに心地よいめまいを覚えた。男からわずかに漂い出ていたフェロモンに、女の本能が反応したのだ。  こんなことは初めてだ。いままでの三十年間、男を刺激することはあっても、男に刺激されることなど一度もなかった。  あの男はたしかにいい男だった。日本人ばなれした彫りの深いマスクといい、深く澄んだ目といい、あるのは好感だけで、いやらしさなどは全然なかっ

    • 可もあり不可もあり

      〔解説〕  「可もなく不可もなし」という言葉がある。「良いところもないが悪いところもなく、平凡である」という意味だ。たとえば「今年の新入社員はみな平凡で、可もなく不可もなしと言ったところだな」などと遣われる。  もとは孔子が自分の処世の態度について言ったもので、前述の解釈とは意味が若干異なる。  孔子は「世には清い世捨て人もいるが、自分は彼らとは違って可もなく不可もなしであり、ごく普通の道を行く者なのだ」と言った。  このことから「(略)言行に過不足はなく、中道を行くこと

      • それ、気の遣い方が違うでしょ

         梅雨が明けて暑さが本格化しはじめたころ、地元の夏祭りが行なわれた。私は氏子総代の一人なので式典の運営に携わっていた。  主な神事がすんだ後、四人の氏子総代が手分けして、出席者に酒器を配ったり神酒を注いだりしてまわった。  この儀式は、小さな酒器に注がれた一杯の神酒を飲むだけのことなのだが、飲むという表現が大げさに感じられるほどのわずかな量だ。  その神酒を飲んだあと、私の隣に座っていた人が「私、一滴も注いでもらえなかったんですけど、酒が足りなかったんですかね」と私にささ

        • ヘビがまっすぐだったら横に倒れるか

           ずっと前から解けない疑問がいくつもある。  別に珍しい疑問ではないのだが、アシナガバチはなぜあんな見事な六角形が集合した巣を作れるのだろうか。六角形は四角形より角がふたつ増えるだけだが、構造的にはかなり複雑になる。  しかも、たくさんのハチによる協同作業だ。話し合いなどできないし設計図もない。それなのに、まるで打ち合わせでもしたかのように、見事に作りあげる。ハチの種類によって異なるが、巣は独自の形をもっていて、どれもきちんとできている。  クモの巣は、ハチと異なって単独で

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        〔ナンセンス劇場〕陥落してやる

          隣がなんだ

          〔解説〕  人は他人のことが何かと気になるものだ。そして、皮肉なことに他人のほうが良く見えてしまう。  それを言ったことわざが「隣の芝生は青く見える」「隣の花は赤い」「他人の飯は白い」などだ。これらはいずれも羨望や嫉妬などがねじ曲がって生じたさまざまな欲の姿とも言える。  自分以外のもの、特に身近な他人の持ち物や状況を、自分のものよりも良く見がちである、という人間の心理を表している。  対語に「隣の白飯より内の粟(あわ)飯」「よその米の飯より内の粥(かゆ)」などがある。

          隣がなんだ

          よく眠れていますか

           今朝の新聞で、今日9月3日が「睡眠の日」だということを知った。これまでも新聞は読んでいたが初めて目にした(と思う)。いままで新聞が取りあげていなかったのか、単に私が見過ごしていただけなのか。  睡眠の日について調べてみたら、睡眠健康推進機構が日本睡眠学会の協力を得て、睡眠や健康への意識を高めることを目的に制定したということがわかった。  3月18日を「春の睡眠の日」、9月3日を「秋の睡眠の日」と定め、それぞれの日を挟んで1週間を「睡眠健康週間」としていろいろな啓発活動を行

          よく眠れていますか

          学校の勉強はできるけど

           友人のM子は幼いときから勉強ができて、頭がいいので同級生からも一目置かれていた。成績はすべての科目で常にトップクラスだった。顔もかわいく、見るからに利発そうでもあった。  後に関東某県の堅い業種の会社に就職した。そしてしっかり蓄財し、無事に職位定年を迎えて生まれ故郷へ帰ってきた。独身であったために単身での帰郷だった。  そして。  あるとき私は、M子からある講演を聴きに行かないかと誘われた。よく知られた大物料理人H氏の講演会だった。  M子は講演のなかでH氏が言ったひと

          学校の勉強はできるけど

          「愛の虫」は飛びながらエッチ

           今年の夏はどうしてこんなに暑いのだ、と嘆きたくなる日が続いている。今日は曇りでいつもより若干気温が低いと思ったが、湿度は高くて不快さは相変わらずだ。いったいなんだってんだ、とやっぱり嘆く。    さて、そろそろ8月も終わりが近づいてきたが、ちょっと遡って7月2日の地元紙「上毛新聞」の記事から話を拾ってみることにした。  ネタにしようとスクラップブックに貼っておいたが、ほかに書きたいネタがあったため、ずっとそのままになっていた記事だ。タイトルは「ソウルで『愛の虫』大発生」。

          「愛の虫」は飛びながらエッチ

          冗談がわからない人

           現役時代のある日、私は自分の事務所で、クライアント社の担当者である男性Kさんと雑談をしていた。話のなかで、私は謙遜のつもりで、  「私なんかKさんと違って未熟者ですから、もっと勉強しないと」  という意味のことを言った。するとKさんは、  「そうですよね~」  とにこやかに返してきた。  私は〝は?〟と心のなかでつぶやき、あとは二秒間ほど〝……〟だった。普通なら「何をおっしゃいます。謙遜なさって」などと返すところだろう。  雑談はその後も継続したが、たとえ雑談といえど気を抜

          冗談がわからない人

          所沢航空発祥記念館と飛行機のあれこれ

           お盆の期間でいろいろ混雑する猛暑の一日、親戚の新盆に出かけたついでに「所沢航空発祥記念館」に立ち寄った。  所沢というのは埼玉県所沢市のことで、人気タレント所ジョージ氏の出身地でもある。  「日本で初めて飛行場ができた場所」がうたい文句の「所沢航空発祥記念館」は、「所沢航空記念公園」という名の広大な県営公園のなかにある。  この公園は、1911年に開かれた日本初の飛行場跡地に造られたもので、この地でわが国の航空の歴史が始まった。  数多くのパイロットがここで養成され、国産

          所沢航空発祥記念館と飛行機のあれこれ

          先立つものがない

          〔解説〕  元になったことわざはよく知られた「先立つものは金」である。何をするにも金が必要であるという意味で、金がなければ何もできないということに皮肉を込め、端的に表している。  金がものを言うという意味のことわざには、ほかにも「地獄の沙汰も金次第」がある。悪事を働いた者が地獄へ行くときの沙汰、つまり、地獄の裁きでも、金をつかませれば有利な判決が出るといわれるくらいだから、まして俗世では、すべてのことに金の力がものを言うというわけである。 (ここまではパロディーではなく

          先立つものがない

          食虫植物はなぜ虫を食う

           昨日9日、新潟県立植物園に行ってきた。日ごろはほとんど目にする機会のない食虫植物を特集していたからだ。  この植物園では、食虫植物のほかにも熱帯に生育するものなど、日常では見ることのできない珍しい植物をたくさん見ることができる。特に子供などにとってはおもしろいだろう。  まずは植物園の外観など。  2棟のうち、丸屋根のドーム型の建物のほうは岩や小さな流れなどの人工構造物が組まれている。かわいらしい滝も流れ落ちていた。  ものすごく蒸し暑くて汗だくになった。  この記事の

          食虫植物はなぜ虫を食う

          気は置けるかい

          〔解説〕  本来の意味とは逆の意味に取られやすい言葉は少なくない。慣用句の「気が置けない」もそのひとつだ。  この言葉の意味は「気遣いや遠慮の必要がなく、気楽につきあえる」が正しい。使い方の例としては「キノ子さんはなんでも気楽に話し合える、ほんとに気の置けない先輩なんですよ」というぐあい。  しかし、実際には逆に解釈され、「気配りや遠慮が必要な関係」「気を許せない間柄」と取られることが多い。  文化庁が過去に二度調査したが、二度とも誤答が正答を上回り、「相手に気配りや遠慮

          気は置けるかい

          何に熱中するのだ「熱中症」

           こう毎日暑いとうんざりする。いや、うんざりどころか、熱中症にならないか心配になったりもする。実際、熱中症になって病院の世話になる人が毎年出ているのだ。  私は夏になると、素っ裸でラジオ体操に挑んだことを思い出すが、こう暑いとラジオ体操どころではなくなる。  熱中症は、かつては日射病と呼ばれていた。それが、いつのころからか熱中症に名前を変えてしまった。私はしばしば、「熱中症なんていう名前では何かに熱中してしまう病気みたいじゃないか。よくこんなおかしな名前にしたものだ」などと

          何に熱中するのだ「熱中症」

          カラタチの夏

           毎日暑くてうんざりしているが、植物は暑さなんぞはものともせず、元気いっぱいだ。  そんな植物に接していると季節の移ろいがよくわかる。いったいどういう仕組みになっているのだろうとしばしば感心しているが、誰に言われるわけでもなく、自分たちの使命を果たすかのように(というか、果たしているのだろう)着実に生長している。  自宅からは離れた耕地にあるカラタチの木だ。  ついこのあいだ「カラタチの花が咲いたよ」という記事を書いたと思ったらたちまち実がなり、その実はどんどん大きくなっ

          カラタチの夏

          知らぬはほっとけ

          〔解説〕  昔からのことわざ「知らぬが仏」は、「物事の実情を知れば腹が立ったりトラブルが生じたりすることもあるが、知らなければ穏やかな仏のような顔をしていられる」ということを例えたものだ。  また、「みんなにばかにされているのに、当の本人はそれを知らず、平気でいること」という意味もある。  類語に「知らぬが仏、見ぬが秘事」「見ぬが仏」「見ぬが秘事」「無いが極楽知らぬが仏」などがある。  少し横道にそれるが「知らぬは亭主ばかりなり」ということわざもある。これは江戸時代の川柳

          知らぬはほっとけ