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細胞が生まれ変わって全身が新しくなる?

 知人のNさんは「人間の細胞は日々生まれ変わっているから、○○日で全身が新しくなる」という意味のことをしばしば言っていた。その〝○○日〟が何日だったか覚えていないが、私はそれを聞くたびに絶対あり得ないと思っていた。
 ちなみに、Nさんは決してばかではない。それどころか、人並みよりやや上と思えるアタマを持っている。

 私は小学校低学年のとき、自転車の無謀運転でケガをし、眉間のやや左寄りの所を数針縫ったことがある。そこは明らかな傷痕になり、成人してからもしばらくの間残っていたが、Nさんの説が正しければ、細胞の生まれ変わりによって、その傷痕は数十日後には消失していたはずだ。

 ついでにもうひとつ。私は十代後半から胃潰瘍と十二指腸潰瘍を何度も繰り返していた。そのせいで十二指腸は変形していると言われた。胃だか十二指腸だか覚えていないが、痕がケロイド状になっているとも言われた。
 日本でピロリ菌の悪業が取りざたされはじめたころ、私はいち早く除去した。それ以後は一度も潰瘍を患っていない。ピロリ菌と潰瘍や胃ガンとの関連について異を唱えるかたもおられるが、少なくとも私の場合は効果覿面だった。
 潰瘍と縁が切れてからも痕は残った。それがレントゲン写真に写るから、健康診断のたびに再検査を指示された。現在は指示されなくなったが、痕はたぶん残っている。細胞の生まれ変わりはどうしたのだ。

 傷に限らず、シミやソバカス、アザ、火傷の痕なども新しい細胞の出現によって消失していくなら、救われる人は数えきれないほどいるだろう。
 しかしそんなことは聞いたことがない。それどころか、加齢によって老人斑が出現したりしわが増えたりする。

 ひょっとしたら、例えばシミの場合なら、シミが〝新しいきれいな正常細胞〟に生まれ変わるのではなく、シミのままの〝新しいシミ細胞〟に生まれ変わるのだろうか。そんなことはないと思うが、そう思いたくもなる。
 ということでちょっと調べてみた。まあ、調べたところで、しょせん素人だから解明できはしないのだが。

 さて、その結果いくつかわかったことがある。
 まず、細胞が生まれ変わるのは事実だが、体の部位によって生まれ変わりの速さが大きく異なる。例えば、腸の粘膜細胞は数日、皮膚細胞は約一か月というぐあい。
 そして肝心なのは〝全身の細胞が一斉に生まれ変わるのではない〟ということだ。つまり、細胞の生まれ変わるスピードは、臓器や組織の種類、その人の年齢などによって異なるから「全身の細胞が新しくなる」という言い方そのものが適切ではないということだ。要するにNさんの説は間違い。

 ちなみに、火傷の痕やケロイド状になった私の胃や十二指腸の潰瘍痕なども、細胞はある程度生まれ変わるようだ。ただし、痕の性質上、生まれ変わりのしかたがかなり複雑で、普通の皮膚などのようにはいかないらしい。
 偉大なる人体、そう簡単に語れるものではないということだ。

 ところで、私の自転車の無謀運転とはどんなものだったか紹介しておきましょうか。
 私はあるとき、庭で自転車に乗って遊んでいた。ふと、道路に向かって走り、ブレーキをかけないで曲がれるだろうか、と思った。
 結果は曲がりきれず、道路を突っ切ったあげく、ふたのない側溝に突っ込んだのだった。
 皆さん、安全運転を心がけましょう。





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