カメムシの悪臭を嗅いだことがありますか
某食品メーカーの製品の袋の中にカメムシが混入していたという報道があった。私が目にしたのは11月8日付けの複数の新聞だった。
開封したときにカメムシがどんな状態だったかまでは説明がなかったが、カメムシが飛び出してきたとか強烈な臭いが漂い出たとかしたのだろうか。密閉された袋の中で生きていたとは考えにくいが、状況がどうであれ、買った人は驚いたことだろう。
その事件とは関係ないが、今年はカメムシが大量発生したという報道が以前からあった。
カメムシは「不快害虫」と「農業害虫」という不名誉な二冠の持ち主だ。晩夏から秋にかけて活動し、植物の液を吸ったりするのだが、特に今年は水稲や果樹などの被害が目立つという。
つい最近、私は自宅でカメムシ捉えた。何か飛んできて落ちたと思ったらカメムシだった。私は二つ折りにしたティッシュペーパーですばやく押さえつけ、そのまま包み込んでゴミ箱に捨てた。
私の捕まえかたがうまかったのか、臭いはまったくしなかった。たぶん、カメムシが臭いを発したときにはすでにティッシュの中だったのだ。カメムシは自分の悪臭で悶絶したに違いない。
カメムシの臭いには有害物質であるアルデヒドなどが含まれている。ティッシュにしっかりと包まれたあげく、狭いゴミ箱に入れられたような状況では自分がダメージを受けるらしい。機密性が高くて狭い場所などでは死ぬこともあるという。毒蛇が自分の毒に平気なのとは事情が違うようだ。
ところで、私がそのカメムシを捕まえた日は、一時間ほど後にもう一度、同じパターンでもう一匹捕まえた。
カメムシは都市部でも棲息している。夜になれば人家の灯や街灯めがけて飛んでくる。どこに潜んでいるかわからないから油断は禁物だ。
蚊は黒い色を好むがカメムシは白い色を好む。干しておいた洗濯物の中で気持ちよくリラックスしていたなどということは珍しくない。白っぽい衣類をしまうときは特に要注意だ。
いま、蚊を漢字表記して思いついたのだが、カメムシを漢字で書けば「亀虫」だ。お察しのことと思うが、カメムシの背の形が亀の甲羅に似ていることが名の由来だ。
カメムシにまつわる俗信もある。日本俗信辞典(角川ソフィア文庫)から少し拾ってみよう(私が言い回しなどを若干変えています)。
◎秋にカメムシが多いと冬は大雪になる(山形県、石川県)
◎ヘクサムシの多い年は大雪(山形県西置賜郡、新潟県)、少ない年は浅雪(山形県西置賜郡)
◎臭気のある虫を手で触るときは「お嫁様、お嫁様」と繰り返したり「ご立派なお嫁様」と言う(栃木県宇都宮市)
◎「お女郎虫」を三回言えば臭くない(長野県)
◎「小僧、小僧」と繰り返してつかむ(神奈川県津久井郡)
◎臭い虫をつかむときは三回手を嗅いでつかむと臭くない。ジョロムシをつかむとき、手を嗅いでつかめば臭くない(長野県、神奈川県)
ジョロムシというのは女郎虫のことだろうか。
変わったものでは「家にクサムシがいると栄える」(石川県七尾市)がある。これは〝いやなものを逆手にとってしまえ〟という発想だと思うが、こういう考え方はユーモラスでいい。
カメムシの悪臭を嗅いだことがある人はどのくらいいるのか知りたいが、そんなことを調べたデータはないだろう。私は何度も嗅いだことがある(言うまでもなく、嗅ぎたくて嗅いだわけではない)。
嗅いだことのない人のためにどんな臭いか教えてさしあげたいが、いい例えが見つからない。むりやり例えるなら腋臭の臭いをパワーアップしたような感じだろうか。
ただし、腋臭は人によって異なるらしいし、そもそも腋臭の臭いも知らないという場合はお手上げだ。やはり本物の臭いを体験してもらうしかないようだ。