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隣がなんだ

〔解説〕

 人は他人のことが何かと気になるものだ。そして、皮肉なことに他人のほうが良く見えてしまう。
 それを言ったことわざが「隣の芝生は青く見える」「隣の花は赤い」「他人の飯は白い」などだ。これらはいずれも羨望や嫉妬などがねじ曲がって生じたさまざまな欲の姿とも言える。
 自分以外のもの、特に身近な他人の持ち物や状況を、自分のものよりも良く見がちである、という人間の心理を表している。

 対語に「隣の白飯より内の粟(あわ)飯」「よその米の飯より内の粥(かゆ)」などがある。
 また、少し毛色の変わったものでは「隣の宝を数える」がある。よその人や家庭のことが気になり、得にならないことに無駄な気を遣うことを言う。隣人の退職金や貯蓄を想像したりするのはよくあることだ。

(ここまではパロディーではなく事実)


〔さらに解説〕

 このように、隣人のことを気にすることわざが多いことから、日本格言制定委員会に対し、珍語漫語の会から「逆に隣人には意識を向けず、自分たちを優位に思うようなことわざを作ったほうがいいのではないか」という提案がなされた。
 ほかの候補作に「隣は隣、内は内」「隣だって人間じゃないか」「隣がどうした」「隣に幸あれ」「隣は幻」などがあった。
 「隣は隣、内は内」については賛否が拮抗したが、慣用的に日常使われていて、新鮮味やおもしろさに欠けるとして結局不採択となった。

 審議のなかで、制定委員会の槍杉副委員長から「現在あるものを逆に使ったらどうか」という意見が出た。たとえば「内の芝生のほうが青い」「内の飯は白い」というぐあいである。
 しかし、珍語漫語の会の須湖すこ副会長がすかさず反対し、不採択となった。それに対し、槍杉副委員長が何も反論せず引き下がったことから、委員の間では、尾琴場委員長同様、槍杉副委員長もハニートラップにかかっていて、そのため無抵抗で引き下がったのではないかとささやかれている。


 街頭インタビュー。

 14歳(男)中学生
 「ぼく、隣は気になります。隣の席の優子ちゃんは勉強ができるんです。ぼく、テストのときはよく盗み見するんです。だからテストの結果はいつも優子ちゃんと同じなんですよ。へへ」

 106歳(女)無職
 「はいこんちは。は? お成り? 誰が。あたしゃ耳が遠くて……ああ、お成りでなくて隣。で、隣がどうしたって? 知らね。あたしゃ隣のことなんぞより自分のことで精いっぱいじゃき。ひっひっ」

 28歳(男)公務員
 「隣がなんだ? そんなこと言ってられないですよ。だって、お隣さんは新婚なんですよ。奥さんは美人でナイスバディだし。ちくしょう、どんなことしてるんだろうな。きっとすごいことしてるんだ。ああくやしい。ことわざなんかどうでもいいですよ。あ~くやしい、くやしいくやしい」





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