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美味しいおつまみがあれば…

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うっかり美味しいおつまみができた日はニヤニヤしています。
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初恋

初恋

商店街でばったり会ったヤスヒロは、面影をしっかりと残しつつ、すっかりおじさんになっていた。
30年も経てばそりゃそうだよな。

うっかり水溜りに落として拾い上げたチョコボールみたいな顔をして炎天下で小さなボールに必死に喰らいつく野球小僧よりも、腰パン気味にダボッとしたパンツを履いて敵を交わしながら足で器用にボールを運ぶサッカー少年の方が、10代の頃の私は好きだった。
クールな顔をして広いグランドの

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夏の熱

夏の熱

「あれ?同じ高校だったよね?」

街で突然そう声をかけられた。
少し見上げて顔を確認すると、確かに、いや間違いなく同じ高校の同じ学年の別のクラスだった山下君だった。
同じ高校とはいえ、高校生の時には話をしたこともなかった。
どこかのアイドルグループにいそうな爽やかな笑顔に、あの頃の私は密かに憧れていた。
登校時や学校の廊下や下校時、山下君の数メートル後ろにはいつも女子たちがまるでSPのようにその動

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キュウカンビ

キュウカンビ

雨降りの日に車を使わず、歩く。
いつもより少し早歩きで、スタスタ歩く。
濡れても平気なかばんと靴で
お気に入りの傘を差して、どんどん歩く。

「テーブルに肘はつかない!」

きっと来世でも耳に残る母の声を思い出し、
肘をはずして背筋を伸ばして夕食を。

冷凍庫に置き去りになっていた柚子の皮と
まあるい氷を入れたグラスにワインを注ぐ。

ここのところは朝も夜も甘かった。
あなたはいつでも、甘かった。

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夏の夜

夏の夜

雨はあんがい好きだけれど、
さわがしい風はきらい。
雪にはワクワクするけれど、
夏の暑さはきらい。

朝にはコーヒーを淹れて
食パンをトーストするけれど、
できることなら
掃除も洗濯もごはんを作るのも
誰かにやってもらいたい。

デクノボウと呼ばれながら
ただおつまみだけ作って
にやにやしている。

そういうものに
私はなりたい。

【桃色サラダ】
=材料=

生ハム
ブリーチーズ
バジル
ドラ

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ウールとエール

ウールとエール

仕事終わりに飲む1杯のビールは最高。
でも、仕事が終わった後でわざわざ立って飲まされる意味がわからない。
働くおばさんはそう思うのですよ。

駅のところにできたことは知っていたけれど、クラフトビールはやっぱりちょっと高いし、その上立ったまま飲まなきゃいけないなんて…と、まだ一度も入ったことがなかったお店、新しく誕生した一宮の地ビールの尾州ブルーイング。
でも、ちょっと待てよ?一度も行ったこともない

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メモ:パスタ

メモ:パスタ

冷めたご飯やおかずが苦手でお弁当を食べることにやや苦痛を感じていた高校生の頃、お弁当箱の蓋を開けた時の気分を上げるためにしたこと。
それは赤や緑、黄色などの色を足すことだった。
私の食べることの喜びの9割は色かもしれない。

【旨味パスタ】
スパゲティ
トマト
モッツァレラチーズ
水菜

オリーブオイル
塩昆布
柚子胡椒

オリーブオイル、塩昆布、柚子胡椒を混ぜてトマトとモッツァレラチーズ、茹でた

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出会う

出会う

どんな人にも必ず1つは良いところがある。
そう信じて生きてきたけれど、初めて出会った頃からあのひとのことはどうも好きになれなかった。

自分だけの世界に浸り、ピシャリとシャッターを降ろして他人を寄せ付けない感じに一歩も歩み寄りたくはなかった。
一度そう心が決めると私の気持ちは距離を広げれこそすれ、1ミリも戻ることはない。

それなのに、どうしてなのか教えてほしい。
今、私があなたを求めてしまうこと

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恋とス

恋とス

「2年に柴田恭兵さんそっくりな人がいるよ!」
ちび子がそう言った。

みんながアイドルに夢中な頃、私は小学生の時から柴田恭兵さんが大好きだった。
「ほら、あの人!」
ちび子が指を指した先には、絶対に意識してるよね、と思える髪型にキメた1学年上の名前も知らない先輩がいた。
「わぁーあはは」
私は思わず声を出して笑った。
その人は目元といい、体型といい、意識しているであろう髪型といい確かに柴田恭兵さん

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主役

主役

自分の人生の主役は
自分以外にいないけれど、
ステージの端っこにちょこんと
いつのまにかいたような人が
どうにも気になってしまうことがある。
そんな時には誰がなんと言おうと
私にとってはその人が主役。

【ブルーチーズディップ】
=材料=
ブルーチーズ
マスカルポーネ
はちみつ

ブルーチーズ:マスカルポーネを1:3くらいの分量で混ぜ合わせ、はちみつを少したらして混ぜます。
あとは味をみながら好み

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めがねとタルティーヌ

めがねとタルティーヌ

ほんのちょっとした仕草でうっかり好きになっちゃうくせに、ほんの一瞬見せた仕草で急激に冷めてしまう。
私にはそういうところがあった。

右手でハンドルを持ちながら左手にシフトノブを握り、左足を勢いよく踏み込んで切ったクラッチを、今度はそろ〜っと足の力を緩めながら2速、そして3速へとつないでゆく。
どうせ免許を取るならとマニュアル車に挑戦してみたものの、右手と左手で違う動きをすることが全くできずに幼稚

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女子会

女子会

「私は今夜女子会だから、あなたは自分で何か食べてね」

そう言って妻がうれしそうにでかけて行った。
ここ10年ほどの間にウエストがゴムのスカートか、身体のラインを覆い隠すざっくりとした、丈の長いワンピースしか着なくなった52歳が1ミリの躊躇もなく堂々と“女子”を名乗る。

「うん、何かテキトーに食べるよ」
そういう俺もいつのまにか、若干空気が漏れて張りをなくした浮き輪が胴にぐるりと巻き付いている。

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図書館とドッヂボール

図書館とドッヂボール

けんかをやめてー ふたりをとめてー
みたいな歌がむかしあったね。
ふたりのひとの心を弄ぶなんて
どうしてそんなことができるの?
なんて思った。

図書館とドッヂボール、 
チョコレートと漬け物、
ひとりが好きなさみしがりや…

どっちも、
どっちも好き。

って、
ぜんぜん弄んでいない。
むしろ私が
弄ばれているんじゃないの?

どっちが好きかを確かめるべく、甘いとピリッと辛いとを試してみました。

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半径3メートル

半径3メートル

与える、なんて
「褒美を遣わす」みたいなことを
口からおもらししちゃう人には
300円か600円かで悩む私の気持ちは
1ミリも解るまい。

どうしたもんかね…

半径3メートルの小さなしあわせに
私は今夜もニヤニヤするだけさ。

おとなの言うこと。

おとなの言うこと。

幼い頃から漬け物が好きでパリポリとよく食べていた。
そんな時、決まっておじさんやおばさんたちは言った。
「この子は酒飲みになるぞ」
と。
大人はテキトーなことばかり言うなといつも思っていた。
ここのところフルーツをピクルスにすることにハマっています。
チーズと一緒に食べたりなんかするとこれがまた合うんですよねー。
ワインなんかに。

【柿ピクルスカナッペ】
=材料=
柿 1個
白ワインビネガー 1

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