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珠玉集

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心の琴線が震えた記事
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#読書

「意味のある偶然」のこと。

先週の日曜日、ある教会でマンドリンとクラッシックギターとコントラバスのアンサンブルが催され、そこで友人がギターを弾く姿を、初めて間近で見ることが出来ました。 いつも遠慮気味で線の細い友人の、ギターを抱くその背筋が伸びた姿は凛として、とても美しく静かな気迫を感じました。 こうやって音楽に向き合い弾き続けて来たのだと、ギターを包むように前傾し真っ直ぐに伸びた背中を見ながら、彼女の音を最前列で聴いていました。 音楽に対峙する厳粛さと、心に語りかけるような深い音色を聴きながら、何か

“The Awakening” Kate Chopin

フェミニスト文学の先駆けのように言われているようだが、私にとっては“昼ドラin上流階級”である。といってけなしているのではない。時々無性にページをめくってみたくなる、密かなお気に入りだ。 ***** エドナ・ポンテリエは裕福な主婦。まだ若く美しく、絵を描くのが趣味で、2人の子供がいるが子供の世話にかまけるよりも自分の時間を優先する生活を送っている。 その夏、ポンテリエ一家はグランド・アイル島の数軒のコテージからなる別荘地に滞在していた。そこでは近郊のニューオリンズに住む裕

11月前半のエンタメ事情|読書・映画感想

11月に入り、読書欲が戻ってきました。 私は遅読です。漫画であれば、戦闘シーンの「ダダダダダダダダタダー」とかも真面目に読んでしまう。 それでも今月は今のところ満足な読書体験ができています。 だけど最近視力が弱ってきていて、目の疲労から一時中断することも多く、読書の合間に映画も観ました。 そんな記録です。 ①夏木志朋著 『二木先生』 読みながら嫉妬してました。このテーマで私も書いてみたかった~、という。 全身全霊でこの一冊を書かれた感、作者の気合いをビシビシと感じ

『カーストとは何か インド「不可触民」の実像』 鈴木真弥

最先端のデジタル分野やグローバルなビジネス界での、インド勢のパワーがすごい。 ハリウッド映画を観ていても、会社の経営者やキャラ立ちしたIT小僧などをインド系の俳優が演じているのが目立つ。(これら、一時期は日本人が占めていたポストだったものだが。。。) インドのイメージは今や、エキゾチックなスパイスワールドから急進最前線のエリート輩出国へと変わってきた。そんなインドだが、現代にあってなおエキゾチックで謎めいたイメージが強くつきまとう理由の一つは、その文化に特有の、有名な身分制

くま読書 私の身体を生きる

たまに、テーマとして書きにくいことをがんばって書いてみようと思う時がある。 書きにくいことは「死」であったり 「性」の話でもあったりする。 なぜ書きにくいのかというと、書きことばに落とし込むためにある種の慎重さが必要だからだ。 慎重に書かなければいけないのに、なぜ書きたいのかというと 自分が真面目に考えたい気持ちがあるからこそ、であって。 誰しもが抱えているからこそ、でもある。 私は、蔦屋書店で見かけてからずっと気になっていた、ある一冊の本を拝読した。 読後は私

【自己紹介】本を読み、豊かに暮らす。

こんにちは。むささびと申します。 前に自己紹介noteを書いてから、ずいぶん時が経ちました。 今回は、改めて自己紹介のnoteを書いてみたいと思います。 簡単なプロフィールや、これまでのこと・これからのこと、好きなことなどについて、とりとめもなく書いていこうと思います。 ■ 自己紹介 プロフィール 神奈川県で生まれ育ち、今は東京の片隅で一人暮らし。 1997年の夏生まれ。今年社会人4年目の会社員です。 周囲の人からは、よく「落ち着いてるね」と言われます。 で

河合隼雄さん

私に得意科目があったとしたら きっとたぶん 得意科目は 「悩むこと」 だったと思います 本当には今起こっていない事を心配して 縦にしたり横にしたりあれこれ 終わった事をあれこれ パンみたいにこねちゃって 先の事を考え 心配しすぎて 困っている 困っている自分に困っている 悩む事にずいぶん熱心だったから 今年 note をはじめてから色んな事を思い出します 好だった音楽、好きだった小説、好きだった絵の事、好きだった洋服の事 ともかく「好きな事」

河合隼雄『で』語るなんて出来ないが、読書は惑うことを肯定してくれた。

読んだことがなかった河合隼雄の著書を読みたくなったのは、薦めてもらったからだ。本を読むのに薦めてもらうきっかけほどありがたいと思うことはない。 私はずっと一人で読書してきたからだ。周りに誰も本の話をする人も現れず、本が好きだとも言えずに過ごしてきた。いったい誰が、どこで本が好きで読んでいるのかが分からないくらい不思議でしょうがなかった。 SNSのおかげで本当に本が好きな人がいることを知ることが出来た。今は聞いたらすぐに教えてくれる人達がいる。 教えてくれる人達がいるのな

初秋に想う 〜秋ピリカGPに応募してみた雑感〜

■秋ピリカGP「秋ピリカグランプリ」は、ピリカさんが主催されているnote企画で、界隈では有名な企画。ただ私は今回が初参加で、この企画を知った理由も「たまたまタイムラインで応募した方の記事を見たから」でした。 ピリカグランプリはテーマと文字数縛りがあり、今回のテーマは「紙」で文字数は1200文字。「面白そう!」と言う、単純な興味半分で参加したわけであります😅 ■自作紹介ってことで、特に深く案を練ることもなく、思いつきでサラサラ〜と書いて応募。適当に書いたわけじゃないんで

宮沢賢治の元素図鑑

作家・詩人である宮沢賢治が鉱石好きだということはなんとなく知っていたのですが(作中にいろんな鉱物の名前が出てくる) 鉱物&元素好きの息子がこの本を読んでいたので ↓  宮沢賢治の元素図鑑ちょっと借りて読んでみると… すごく良い!!!文学と化学をいっぺんに学んだ気分!!! 宮沢賢治の文章と、 そこに含まれている鉱石の名前。 鉱石の解説と写真。元素のいろいろ。 それが1冊になってるんです。 読みだしたら、心の中で (へぇ〜)とか (あっ、あれがそうか…)とか

拝啓、ミア・カンキマキさま。

ミアさま、ああ、ミア・カンキマキさま! あなたのお書きになった『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』が、どれだけ私の心を熱くしたかわかっていただけるかしらん? あなたと清少納言(あなたにならってセイと呼ばせてもらうわね)との、国境も時空も越えて結ばれた関係性。その絆に私はときめいてしまった。 ソウルメイト。 あなたとセイはまさにソウルメイトだわ。 好きな作家って、ソウルメイトなのよね。 心から大好きになると、もうどこに行っても、何をしていても、作家さんは私と常に一緒

2024年7月読書記録 謎のアンデッド、川端、無垢なアメリカ

 今月は、青空文庫(太宰治)とそれ以外の小説に分けて投稿します。  青空文庫以外では、8冊の小説を読みました。遠藤周作の2冊は別記事で。 イーディス・ウォートン『無垢の時代』(河島弘美訳・岩波文庫)  ウォートンは20世紀前半に活躍したアメリカの女性作家です。無垢=イノセントという言葉は、アメリカという国やアメリカ文学を語る際の重要キーワードと言われます。清教徒(ピューリタン)が作った国ということもあり、一時期禁酒法が施行されていたり、妊娠中絶が大統領選挙の重要争点になっ

両手に抱えた分厚い冒険

新しい本を手に入れる。 それは新たな未知の冒険を手にしたのと同じことを意味する。 つまり本が厚ければ厚いほど長く壮大な冒険が私を待ち受けていることを意味していて、だから同じ内容でも上下巻に分かれているらしい日本語訳の『白痴』(F・M・ドストエフスキー)よりも一巻完結で約五センチメートルの厚さでずしりと重さを実感できるチェコ語訳の『白痴』のほうがロマンがあると勝手なことを思っているし、確か京都で大学生をしていた頃に買って今も実家のどこかに収納されているはずの『細雪』(谷崎潤一郎

どうして佐田先生は黒ジャージに白衣を着ているのか? ~渡邉有「月に背いて」感想文~

#創作大賞感想 読んでいる最中、ずっと鼻水が出ていた。 本屋に行っても、図書館に行っても、鼻水を出し続ける僕は、なんらかのアレルギーなのかと思っていた。 ただ、今回ばかりはタブレットでの読書だ。紙のアレルギーというわけではなさそうだ。ではなぜ、これほどまでに鼻水が出てしまうのだろう。 おそらく、アレルギーのように、体の中で、物語が何かを刺激しつづけていたのかもしれない。 興奮するほど鼻水が出てき始めたのは、この小説に暗躍する白と黒に気づいたからである。 * 「月