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珠玉集

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心の琴線が震えた記事
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2024年11月の記事一覧

ハードルの向こうの風景は | エッセイ

2025年がもうすぐそこまで近づいて、あれだけ大変だったパンデミックもすっかり歴史の教科書の1ページへと遠のきつつあります。 ロックダウンで私たちが参っていたとき、会社や行政は初めてのことに対応するのにさぞ尽力したことでしょう。なにせ前例のないことをするのは、ハードルが高いのですから。あの頃毎日アップデート会見を開いていた政治家は、ある日こう言いました。 「前例のないことをしようとするとき、二種類の人間がいる。一つは、理由を並べてできないと言う人間。もう一つは、理由を並べ

オムツが外せなくても、幼稚園に行けると思っていたら

 手土産を持参する時は、紙袋に入れる。一般常識なのに、なぜそれをやらないのかと。似たような話を、これまで腐るほど言われてきた。我ながら、なかなかの世間知らずだと思う。  世の中には、知らないと損をすることが腐るほど多い。ならば、義務教育で教えてくれたらいいのに。国語・算数・理科・社会。どれも大切な学びであることは間違いない。けれども、この世で滞りなく生きていくには、5教科と同じくらいに礼儀や常識も大事な気がする。  そう誰かに伝えると「そういうことは普通、家で教えてもらえ

究極の私信

2010年に結婚した。 妻とは職場の同期として出会い、お互いに仕事の悩みを相談し合う中で、仲が深まり自然な流れとして結婚することになった。 世の中にはこんな出会いはたくさんあり、ありふれているだろう。 ただ、私たちに二人にとっては唯一の出会いであり、運命であり、その先にある幸せな未来しかその時は見えていなかった。 結婚する人の大多数は、はじめは幸せな未来を信じて疑わないと思う。 私たちも、もれなくそうであり、私たちの乏しい想像力では結婚後に楽しい未来だけでなく、いろ

人生変えたよ

noteは人生を変える。 人のことは知らない。 私は私の話しかしないと決めている。 noteを書いていて、自分の人生が自分が夢見ていた方向に舵を切る経験を私は何回かしている。 noteを書いたことで、私は望む仕事に配属されて、本を自費製作し人に売り、義母と仲良くなった。 さらに全国にとどまらず海外にも親愛なる人が増えた。 最近では10メートル小走りしたらおしっこを漏らしていた過去が嘘のように、8キロ走れるようになった。目標の10キロは目の前。 金の壺を売るわけでも

空くじなし(#シロクマ文芸部)

『紅葉🍂からくじなし』というポスターが目に入った。  今日は妻の付き添いで、地元の公園で開かれているフリーマーケットにやってきた。  妻は嬉々として出店されているお店を渡り歩き、雑貨などをメインに物色している様だった。  私は特に欲しいものもなく、手持ち無沙汰と人混みに早くも疲れを感じ、居場所捜しに注意を注いでいた。  そんな時に目に入った『紅葉🍂からくじなし』のポスターだ。  店主は白髪の老人でベレー帽を被っていて芸術家のようにも見えた。  テーブルにガラポンくじ器を置いた

掌編: 慰めてくれる友

 ヤケになる風を月が慰める。 太陽と争った風は、旅人の上着を剥がそうとし失敗。じわじわと暖めた太陽が賭けに勝った。  月はポロっと「強引だったね」 呟き、風が強風になる。 「このままじゃ鬱になりそう」 「そっか」月は風の泣き言へ耳を傾け、 「強引でも風が必要なときがある。 風には長所があるよ」  月は地球に立つ、大きな風車を指差した。 「あの羽を回さないと。 地球人は電力需要を求めている。 風の力を待っているんだ」 風は口を尖らせ「知ってるよ」と無愛想。  月は次に家

【はじめに】ジェーン・オースティン作品に見る、摂政時代のクリスマス

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ 世界的に有名なクリスマスをテーマにした小説と言えば、やはりディケンズの『クリスマス・キャロル』を思い浮かべる人が多いのでは。 ところで、ディケンズと同じイギリス出身の作家で、出版されたすべての作品に「クリスマス」というワードが出てくる作家をご存知でしょうか。 それがこの方、ジェーン・オースティン。 ディケンズより一昔前の摂政時代(※)に活躍した女性作家です。 ❄︎ かの夏目漱石は、著書『文学論』の中でオースティンに関してこう述

オムライスの薄焼きたまごは破れてもよい

自分の会社の経営理念と現場の乖離を諦めているくせに 人の会社の経営理念と実際のサービスが伴わない!と憤慨することはない。 ただがっかりはさせてくれ。がっかり。 だからといって、手放さないよ。この矛盾こそ生きる道。 好きなことを仕事にすることと、幸せに生きることはイコールではない。 幸せに生きることは、好きだけでは薄味である。 定期テストで、5教科なら400点以上はとりなさいよ!と子供達に檄を飛ばしていた私が、 職場の同僚の、子供のテストが30点だったんだけど。に

13番目の月 シロクマ文芸部

十二月には12の月が集う。 いえいえ、私達の住んでいる地球の話ではありません。地球から何万光年も離れた星の話。 その星のありようは少し変わっている。 薄めの円柱形の星の周りに衛星である12の月。これらの月の軌道、移動の速度もそれぞれ違うのだが、十二月になれば12の月はこの星の周りに30度の間隔で円を描くように綺麗に並ぶ。しかも12の月はそれぞれの美しい色をまとっているので、この星の人々は神の降臨と信じ、この神秘を賛美した。 宇宙は広いがこのようなドラマチックな星は他に例がな

コメント欄に花が咲く

ビジネスエスノグラフィー研修で「路地裏」のことを話題にしたことを記事にした。 この記事は10/22にアップしており、コニシ木の子さんのベストレビュアー賞について知る由もなかった。 エスノグラフィー(民族誌)についてはこちら。 げんちょんサンにうけるだろうか。 2024年9月中旬から10月中旬まで研修を受講し、その間「路地裏」の記事を読み漁っていった。 途中、10月15日に「ビジネスに役立つnote勉強会」へ参加した。 その時の記事はこちら。 上記の勉強会では講師のn

初めての国をほんのちょっぴり楽しむ という乗り換えの醍醐味

 イギリス北東部に住むパートナー、日本に一人暮らしの老母を持つ私は年に1〜2度の日本とイギリスの往復をします。サラッと書いたけど、色々大変なこともいっぱい、それでもこれが私たちが作っている今の私たちのベストです。  ロンドンまでの直行便はたくさん飛んでいますが、地方都市までだと日本からの直行便はありません。なのでどこかを経由して飛んでいきます。  日本→イギリスは時差の関係でぐったりしているので、あまりこだわりはありません。利便性第一です。一方でイギリス→日本は、せっかく

いまはもう言わない

週2回、実家に行く。 高齢の両親の顔を見て、両親を支えている弟としゃべって 配食のお昼の弁当をセットして、朝食用の味噌汁を3日分くらい作って 帰ってくる。 行くたびにじわりじわりと、両親は弱っている。 月1回(つまり8回行って1回)くらいは、そう感じる。 帰ろうとすると、甘いお菓子やポテチなんか出てくる。 母はもう動くのが大儀だから、父が、ちいさなお菓子鉢に入れてくる。 オロナミンCやコーラがブームになっていたり 父などは、「ちゃいなマーブル」という昔懐かしの飴玉やゼリー

#251 生きてるだけで丸儲け~ 感嘆する瞬間をありがとう

イギリスの冬は暗くて寒くて長い。 稀に二階の出窓にさんさんと陽が射して、二重窓の室内でぽかぽか気分を味わう日もないわけではない。たまにそんな「ご褒美の日」があることで「耐える冬」をやり過ごすことができているのかもしれない。 SADという症状がある。エスエーディーと言うが、サッドと呼んだりもする。英語の sad (悲しい) と同じっていうのがなんとも相応し過ぎやしないか。 季節性情動障害の病名がつくためには診断基準があるはずだが、seasonal (季節に) affecti

#250 こんなことあるぅ⁉ Ep2 狂い咲いてる桜

11月も半ばに差し掛かった日のことでした。 家の裏庭の桜の木の葉っぱがこのくらいに色づいていました。 秋が深まりかけたその日、出かけた先で目にした光景。その違和感に足が止まりました。 ちょっと周って角度を変えたら、 「こんなことあるぅ!?」 つい口をついた言葉でした。 公道ですから英語な筈なのに、出てしまった一言。 赤くなった葉とピンクの花が一緒に木についているのを見たのはこれが初めてだったのです。 「狂い咲き」という言葉で思い出すことがあります。 私がイギリスで