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13番目の月 シロクマ文芸部
十二月には12の月が集う。
いえいえ、私達の住んでいる地球の話ではありません。地球から何万光年も離れた星の話。
その星のありようは少し変わっている。
薄めの円柱形の星の周りに衛星である12の月。これらの月の軌道、移動の速度もそれぞれ違うのだが、十二月になれば12の月はこの星の周りに30度の間隔で円を描くように綺麗に並ぶ。しかも12の月はそれぞれの美しい色をまとっているので、この星の人々は神の降臨と信じ、この神秘を賛美した。
宇宙は広いがこのようなドラマチックな星は他に例がない。人々はこの星に生を受けた幸せを噛み締めているのだった。
ところが、ある12月。13番目の月が突如現れた。あってはならぬ事。月の配置は乱れ、不穏な空気が漂う。人々にとっても理解できない出来事であった。
現れたのは遥か彼方にある地球の唯一の衛星である月。
月は「仲間に入れて欲しい」と12の月に繰り返し願う。
遠くから訪れた月を無下に追い返す訳にもいかず、12の月は取り敢えず話を聞いてみた。
「地球にはまだ生き物は存在せず、月の仲間もおらず寂しい。通り過ぎる流れ星にここの話を聞いて居ても立っても居られなくなったのです」
「君は地球から家出して来たのか。それならば地球が心配していると思う。早く帰って安心させた方が良い。地球にもやがて命が現れるはずだ」
等と12の月達は口々に地球から訪れた招かれざる客人を諭し始めた。
と言うのも月が13個になれば困るのだ。13はこの星では特別に縁起の悪い数字である。人々に尊ばれている月が13個になることは許されない。
歓迎されていないことを知り、地球の月はすごすごと地球に帰って行った。
しかし、地球はもとより太陽系の星たちが首を長くして月の帰りを待っていてくれたことを知り、嬉しくて泣いた。太陽には叱られたけれど、みんなに愛されているとわかっただけでも家出して良かったと月は思った。
そうそう。12の月のある星では、遠くの星からやって来た13番目の月の話がおとぎ話として語り継がれているが、実話であった事を知る者は誰もいない。
了 858文字
小松幸助部長の今週の企画『十二月の月』です。
よろしくお願いいたします。
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