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パナマ運河の敗北①中国一帯一路の蹉跌
パナマ運河は太平洋と大西洋を結ぶ運河です
「そんなこと常識でしょう!」と
記事を閉じる前に
なぜ「パナマ運河を返せ!」と
トランプ大統領が主張するのか
真意を知っていますか?
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世界には重要な運河がいくつかあります
その中でも特に重要なのが
世界三大運河
①パナマ運河は太平洋と大西洋(メキシコ湾)
②スエズ運河はインド洋(紅海)と大西洋(地中海)
もうひとつは・・・
船乗りや地理好き以外は簡単に・・・
というのは昔のはなし
今はググるとすぐに「キール運河」と表示されます。
③キール運河は北海とバルト海を結ぶ運河です。
スエズ運河は水平式運河
残りのパナマとキール運河は閘門式運河と呼ばれます。
閘門式運河とは👇
①船が閘門(こうもん)に入る
閘門は大きな「水の部屋(=閘室)」の蓋です。
船がこの部屋に入り後ろの蓋(ゲート)が閉まります。
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②水を増やす(減らす)
船を高い場所へ運ぶとき→水を最上段水面から落として水位を上げる。
船を低い場所へ移動するとき → 水を下の段へ合わせて水位を下げる。
これにより船は高低差のある場所を安全に移動できます。
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③水位が近づいたら、前の扉が開く
・船が次の区間に進みます。
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※コトバンクさんから図をお借りしました。
なぜ閘門が必要?
閘門に挟まれた水路へ注水することで
川や湖と同じ水位を人為的に作り船の水平移動を
可能とします。
閘門を使って閉所式水路が作れれば
山の上の湖や潮位変化が激しいバルト海のような海でも
船をスムーズに通せるようになります。
パナマ運河のような「閘門式運河」を採用すれば
南北アメリカ大陸間で船は大陸をぐるっと回らずに
短いルートで移動できる!という着想です。
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その場所は
①太平洋と大西洋の距離が短く
②地勢があまり険しくない地域
③運河の高低差を作るための水源が高い場所に存在する=水をポンプをあげる必要がない。
その場所を中米各地で探しました。
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最終候補に残った二つの場所は
①ニカラグア
②パナマ
です。
①ニカラグア運河計画
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南北アメリカ大陸をつなぐ中米の地峡に
運河を作る構想はスペインによるアメリカ大陸植民開始
の頃から存在します。
19世紀始め【ナポレオン三世】が
「ニカラグア運河計画」は実現可能だと発言した経緯は
フランスの領土拡張計画が「アフリカで頓挫した」ことと
無関係ではありません。
しかしこのルートは
①ニカラグア湖の水面が海抜32メートルであり
もう一つの有力ルートであるパナマのガツン湖の26メートル
と比べると高い。
②湖自体はニカラグア湖の方が大きいが地峡の幅と山地の
高さの点でパナマのほうが有利
その2点を考慮して・・・
フランスが開鑿に着手したのはパナマ運河でした。
その失敗に着目して
中国が推し進める「一対一路構想」の一環として
2014年12月香港資本によるHKND社※によって
ニカラグア運河は着工されました。
しかし・・・4年後の2019年に完成予定と
されていましたが、プロジェクトは想定以上に難工事であり
予算不足と香港の技術力では実現が困難ではと疑問視する声が深まりました。
結局2018年2月には工事は中止させられHKNDは解散しました。
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日本ではなぜか経済マスコミほど
「中国政府を忖度する」ため
主要メディアで全く取り上げられませんでした。
小生が属する世界では
「中国一対一路が本格的に躓いた!」
と狭い範囲内ですが話題になりました。
②パナマ運河計画
世界でも類例をみない大型の閘門式運河が
「パナマ運河」です。
パナマの太平洋に面する商港は
「バルボア商港」と名付けられていますが
その由来は1513年スペイン人探検家
バルボアがパナマ地峡を徒歩で横断した
時点まで遡ります。
以前はこの真横に米海軍ロッドマン基地
がありパナマ運河の警備を担っていました。
「帝国海軍の潜水艦が攻撃を画策した」
ほど運河が重要施設だからです。
パナマにはかつてアメリカ南方軍の本部が存在しました。
その場所は「アメリカが統治していたパナマ運河の横」
です。
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なぜか?
フランスがニカラグア地峡での運河建設をあきらめ
次に選んだ場所こそパナマ地峡
フランスの外交官であり「運河屋」と
呼ばれたフェルディナンド・デ・レセップスは
スエズ運河の成功をきっかけに
「次は太平洋と大西洋」だとニカラグア地峡・・・
のちにはパナマ地峡に閘門式運河を建設する計画を立て
1880年に着工しました。
しかし・・・
砂漠地帯の地面を水平に開削した
スエズ運河ほど・・・
パナマ運河は簡単ではなかのです。
パナマ運河会社社長に就任しましたが
辣腕を・・・振るえなかったのです。
黄熱病や現地民との対立・・・
難工事による資金の枯渇
加えてフランス本国で【パナマ疑獄事件】が起こり
1889年に運河会社は破産しました。
そして運河は未完成のまま
レセップスは1894年に死去しました。
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アメリカはこの東西の大洋を結ぶ運河の夢を実現すべく
1904年に建設工事をアメリカ資本で再開しました。
そして難工事の末1914年になって
ようやくパナマ運河は完成したのです。
アメリカは「莫大な資本投下」と「運河の戦略的な価値」
のため永年の管理権を当然のように主張しましたが・・・
1977年にカーター大統領がパナマ側の半ば強引な
「民主的領土移管」を呑まされました。
独立させたのはアメリカです・・・
当然のむくみ報いでしょう。
パナマの運河利権は強大であり
その安定名目でアメリカの関与した運河運営は
1999年までつづきました。
ノリエガ司令官の独裁政権と
麻薬密売者の一層を企図した
パナマ侵攻などにより様々な問題を抱えながら
当初の予定どおり運河の主権は2000年に
パナマ運河庁へ引き渡されましたが・・・
莫大な運河利権でパナマの国家運営は盤石に・・・
そう思えたのですが・・・
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ラテン系の民族が主体のパナマは
陽気な土地柄ですが財政運営はJaws上手ではない
2007年から2014年において実施した
「パナマ運河拡張」でふくらんだ負債解消のため・・・
港湾管理権を売った相手が香港資本です。
運河の太平洋側にあるバルボア商港と
大西洋側のクリストバル商港の
管理権を香港の企業の子会社に販売して
資金の枯渇を防いだことが
トランプ大統領の主張する
「中国のためパナマ運河をアメリカが作った訳ではない」
という発言の大元です。
「ニカラグア運河計画」の頓挫で
新たな「一対一路計画遂行」の適地を探していた中国にとって
「パナマ運河周辺港湾の管理権」は
棚から転がり落ちた戦略的ぼたもちだったのです。
全長約82キロメートルという世界的な
海上航路短絡運河はその交通量の多さから
「通過待ち商船の滞留」が世界的問題になるほど重要です。
バルボア港とクリストバル港両方を抑えられると
「いざという時に中国のお伺いを立てないと戦略的な輸送に支障が出る」
というのは
太平洋と大西洋に分断された国家
アメリカ合衆国には死活問題です。
なぜアメリカが10年間放置された無謀な
「パナマ運河計画」を莫大な資金を投入してまで
完成させたのか・・・
そして博愛主義者のカーター大統領が
「運河の返還」を主張して以降
「パナマにもたらされた様々な厄災」を考えると
「トランプ大統領が変なこと言っている」
という論調に終始する・・・
日本のマスコミの報道のほうが
「アメリカ的には変なこと言っている」なのです。
パナマは三度独立した国
①1819年に大コロンビアの一部としてスペインから独立
スペインによる長年の植民地支配からの独立
②1903年アメリカの干渉でコロンビアから独立
20世紀初頭アメリカのセオドア・ルーズベルト大統領の干渉でコロンビアから分離独立
③2000年アメリカのパナマ運河主権の終焉
この年がパナマ共和国が実質的な独立だと国内では認識さてています。
この複雑な点を語らずに
パナマ運河の特殊な事情は理解できないと小生は思います。
長くなったので小生が経験したパナマのはなしは次回へ譲ります。
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