シェア
湧澄嶺衣
2024年9月30日 05:11
『逆転する食卓』私は目覚めた。見知らぬ厨房。目の前には巨大な調理台。その上に肉の塊。包丁を手に取ると、体が勝手に動く。肉を切り分け、煮込み、盛り付ける。「いらっしゃいませ」と声が漏れる。私の口から。客が入ってくる。人の姿をした動物たち。牛、豚、鶏……。彼らは優雅に着席し、私の作った料理に舌鼓を打つ。「本日の食肉、とても美味」と牛が言う。その瞬間、恐ろしい真実に気付く。
2024年9月29日 10:31
『肉の記憶』私は目を覚ました。見知らぬ部屋。壁一面に肉が貼り付いている。生々しい赤。恐る恐る触れると、肉が蠢いた。そこから声が聞こえる。「助けて」と。慌てて部屋を飛び出す。都心の雑踏。だが、何かがおかしい。通りすがりの人々の顔が、みな同じ。私の顔だった。パン屋に駆け込む。ショーケースの中、パンではなく肉片が並ぶ。店主が笑顔で差し出す。「いつもの」と。それは、人の形を
2024年9月28日 09:54
『磁気の檻』私は目覚めた。見知らぬ部屋。窓から見える都心の風景は、逆さまだった。動こうとして気づく。体が宙に浮いている。足元には、巨大な磁石のような装置。扉が開き、白衣の人が入ってきた。「実験は順調です」と、誰かに告げる。私は叫ぶ。だが、声が出ない。目を閉じて開くと、そこは自室。夢?安堵のため息。だが、体が軽い。鏡を見ると、髪が逆立っていた。部屋を出ると、全てが宙に浮
2024年9月27日 05:30
『影猫の街』都心の雑踏。私は猫を追いかけていた。黒猫……だが、よく見ると影のようにも感じる。路地を曲がると、そこは見知らぬ街。建物は同じ。人々の姿も変わらない。けれど、皆が影のような猫を連れている。私以外の全員が……違和感に包まれる。ふと自分の影を見ると、そこにも猫。恐る恐る手を伸ばすと、影から飛び出した。黒猫は私の腕に乗り、目を合わせた。その瞬間、街が溶け出す。影の猫
2024年9月26日 11:05
『杢の瞳』私は本棚から一冊を手に取った。タイトルは『杢の瞳』となっていた。開くと、そこには見覚えのある風景。都心の雑踏。だが、何かが違う。人々の目が、みな杢色に輝いていた。不思議に思いながらページをめくる。するとそこに、杢色の瞳をした私が。慌てて鏡を見る。瞳は普通だ。だが、目を閉じて開くと、杢色に。驚いて本を閉じれば、元に戻る。恐る恐る外へ。人々の目は普通だった。だが、
2024年9月25日 05:43
『瞬きの間の真実』私は目を閉じた。一瞬の暗闇。再び開いた瞬間、世界が一変していた。都心の雑踏は消え、静寂が支配する。建物は朽ち果て、瓦礫の山と化す。災害の爪痕か。それとも……。懐中電灯を取り出し、足元を照らす。暗闇の中、何かが光る。拾い上げると、一枚の写真。そこには笑顔の私。だが、見覚えのない場所で。記憶にない笑顔。知らない風景。私は誰なのか。ここは何処なのか。そして、なぜ
2024年9月23日 05:25
『佐藤さんの迷宮』都心の雑踏の中、突如、佐藤さんと呼ばれる。振り返ると、見知らぬ男性。「君が探偵だろう? 依頼がある」困惑しつつも、好奇心に負け、従う。辿り着いたのは、謎の建物。そこで告げられた真実。「この世界の全ての人間は佐藤さんだ」不信感を抱きつつ外に出て、街を歩く。確かに、皆が佐藤さんと名乗る。あわてて建物へ戻り、一番奥の部屋へ。鏡の前に立つと、そこには無数の私。
2024年9月22日 06:31
瞬きの真実 私は窓際の椅子に腰掛け、雨音に耳を傾けていた。古びた一軒家で一人、本を読みふける至福の時間。 突然、携帯電話の着信音が鳴った。「もしもし」 受話器の向こうは、祖母の声。「今すぐ来てほしいの」 切迫した調子に、私は本を閉じた。 祖母の家に着くと、そこは不気味なほどの静寂に包まれていた。「おばあちゃん」 呼びかけても返事はない。居間のドアを開けると、祖母の姿が
2024年9月21日 05:39
『エンブレムの迷宮』都心の古道具屋。不思議なエンブレムを見つける。触れた瞬間、世界が歪む。目覚めると、私は探偵。依頼内容は、本当の自分を探せ。街中に散らばる謎のエンブレム。一つずつ解くたび、記憶が蘇る。でも、それは知らない私の記憶。やがて、最後のエンブレムへ。そこで見たのは、無数の私。皆、異なる人生を歩んでいる。「本当の私はどれ?」問いかけると、全てのエンブレムが
2024年9月20日 05:48
『霧の向こうの私』都心の夜。突如の濃霧。フォグランプの光が宙を舞う。それは私を誘うかのよう。好奇心に駆られ追いかける。霧の中、景色が歪む。辿り着いたのは廃工場。そこで見たのは、もう一人の私。「私は誰? あなたは誰?」問いかけると、彼女は消える。代わりに現れる無数の私。皆、異なる人生を歩んでいる。「本当の私はどれ?」その時、全てのフォグランプが一斉に明滅。目眩とともに
2024年9月19日 06:16
『電流の迷宮』都心のカフェ。携帯の充電をしようとコンセントに手を伸ばす。瞬間、電流が全身を駆け抜ける。目覚めると見知らぬ廃墟。そこかしこにコンセント。差し込むたび、別の場所へ。図書館、遊園地、美術館…全て人気のない廃墟。やがて、見覚えのある部屋に。そこには『私』が……でも、少しずつ違う。「本当の私はどれ?」問いかけると、全てのコンセントが光る。恐る恐る手を伸ばす……する
2024年9月18日 08:40
蝉時雨の時 私は、公園の片隅に座っていた。蝉の声が耳に響く中、読んでいたミステリー小説に没頭していた。 ふと、水の音が聞こえた。噴水の音かと思ったが、周囲を見回してもそれらしいものは見当たらない。 心の中で謎が膨らんでいく。好奇心が抑えられず、音の出所を探ることにした。音を追いかけ、公園の奥へと進む。 そこで、古びた小さな池を見つけた。水は澄んでいて、まるで時間が止まっているかのように静か
2024年9月17日 04:10
気圧の罠 都心の古書店で見つけた一冊の本。表紙には『空気圧の秘密』と記されていた。好奇心に駆られ、購入する。 帰宅後、ページをめくると奇妙な図表が目に飛び込んでくる。気圧の変化と人間の行動の相関関係を示すグラフ。そこには信じがたい仮説が記されていた。「気圧操作により、人々の思考と行動を制御できる」 荒唐無稽な話だと笑い飛ばそうとした矢先、部屋の空気が変わった。 息苦しさを感じ、窓を開け
2024年9月16日 05:39
影の渦 都心の雑踏に紛れ、私は歩いていた。人混みの中、ふと目に留まったのは古びた写真館。そこに吸い寄せられるように足を踏み入れる。 薄暗い店内。壁一面に並ぶ写真の中から、一枚の風景写真が私を呼んでいた。山の頂。しかし、よく見ると山頂の影が渦を巻いている。不思議に思い、店主に尋ねる。「これは?……」 その瞬間、世界が歪んだ。私の意識は写真の中へと吸い込まれていく。 気がつけば山の頂上。