小説【255字】肉の記憶
『肉の記憶』
私は目を覚ました。見知らぬ部屋。
壁一面に肉が貼り付いている。生々しい赤。
恐る恐る触れると、肉が蠢いた。
そこから声が聞こえる。「助けて」と。
慌てて部屋を飛び出す。
都心の雑踏。だが、何かがおかしい。
通りすがりの人々の顔が、みな同じ。
私の顔だった。
パン屋に駆け込む。
ショーケースの中、パンではなく肉片が並ぶ。
店主が笑顔で差し出す。「いつもの」と。
それは、人の形をした肉だった。
目を閉じて開く。元の街に戻っている。
だが、手には確かに肉片が。
私は誰なのか。これは現実か悪夢か。
記憶を探るため、再び目を閉じる。