小説【283字】佐藤さんの迷宮
『佐藤さんの迷宮』
都心の雑踏の中、突如、佐藤さんと呼ばれる。
振り返ると、見知らぬ男性。
「君が探偵だろう? 依頼がある」
困惑しつつも、好奇心に負け、従う。
辿り着いたのは、謎の建物。
そこで告げられた真実。
「この世界の全ての人間は佐藤さんだ」
不信感を抱きつつ外に出て、街を歩く。
確かに、皆が佐藤さんと名乗る。
あわてて建物へ戻り、一番奥の部屋へ。
鏡の前に立つと、そこには無数の私。
皆、佐藤さんを名乗る。
「本当の私はどれ?」
問いかけると、世界が溶解。
目覚めると自宅。
机の上に一冊の本。
『佐藤さんの冒険』著者は私。
最後のページには……「全ての可能性が現実。名付けるのは、あなた」