小説【295字】影の渦
影の渦
都心の雑踏に紛れ、私は歩いていた。人混みの中、ふと目に留まったのは古びた写真館。そこに吸い寄せられるように足を踏み入れる。
薄暗い店内。壁一面に並ぶ写真の中から、一枚の風景写真が私を呼んでいた。山の頂。しかし、よく見ると山頂の影が渦を巻いている。不思議に思い、店主に尋ねる。
「これは?……」
その瞬間、世界が歪んだ。私の意識は写真の中へと吸い込まれていく。
気がつけば山の頂上。目の前で影が渦巻き、その中心から伸びる黒い腕が私を捕らえる。しかし恐怖の中、腕は優しく私を包み込んだ。
「おかえり」
その声に、全てを思い出す。これが現実で、あの街こそが夢。私は本当の自分を取り戻したのだ。